柳家権太楼の「つる」 ― 2024/05/04 07:50
よろしくお付き合い願います、と権太楼は始めた。 この齢になると、運転免許は、いらない。 返納したけれど、ちょっと迷った。 漫才の東 京太・うめ子の京太に、相談じゃないよ、世間話で聞いたら、駄目駄目、無謀なことをした、と言う。 何があったと、聞くと。 80幾つかで、千葉の松戸警察に返納したんだけれど、帰りに無免許運転で捕まった。 車はあるんで、弟子の福多楼が送ってくれる、気の利く男で、着物、時間、飯(めし)の面倒をみてくれる、会計は私のカード、暗証番号も知ってます、このところ一平さんと呼んでいる。
今日は、私がトリで、普通はもっと大きい噺をやる。 「つる」ですよ、40分やって下さい、って言われてる。 そんなにあるわけないだろう、「つーるー」で、終わっていいんだ。 長くやれって言っても、無理。 今日は、最初が知らねえネタ、それから難しいネタがつづいているんで、最後は気楽にしていて、いいんだろう、どうなるか。 別に、何かあるわけじゃない。(と、羽織を脱ぐ)
どうしようかと、思って。 何しに、来たんだ。 用って、訳じゃない。 床屋は暇がつぶせる、町内の若い衆が集まって、くだらない話、馬鹿話をしててね。 こないだ隠居さんの話が出てね。 噂話か。 うわさ? 口偏に尊ぶと書く。 そうなんです。 私のことを、何て言ってるんだ。 言えねえ、頭に血が昇って、スコーーンと逝っちゃうから。 何だ、そこまで言って。 耳を塞ぎたくなる話なんで、何も気にしないほうがいい。 大丈夫だ、言ってごらん。
隠居さんは、いつも美味い物を食って、仕事はしていない、ことによるとアワワワじゃないかって、ね。 アワワワって、何だ? ドロボウ! 泥棒なんかしていないって、言ってくれたんだろうな。 言ったよ、そんなものは、三年前にやめちゃった、てね。
こないだは、みんなで褒めてたよ。 隠居さんは、物を知っている、生き字引だって。 そうだ、それで、来たんだ。 半公が、「つる」は日本の代表的な鳥だって言って、「つる」は、なんで「つる」っていうのか、って聞くんです。 まあ、いいから落ち着けって言って、俺は用があるから帰る、隠居さんに聞いてみようって、やって来た。
「つる」は、姿形がいい。 首が長いから、大昔は首長鳥と言っていたんだ。 昔、ある白髪の老人が浜辺に立って、小手をかざしてはるか彼方を見ると、唐土(もろこし)の方から、オスの首長鳥が「つーーー」っと飛んで来て、松の古木に止まった。 あとからメスが「るーーー」っと飛んで来て、その松の古木に止まった。 白髪の老人が言った、「つるだ」。 隠居も、くだらないことを言うね。 よそでは、言うなよ、他言無用だ。 拷問を受けて、背中を鉈で割られて、鉄の熱湯を注がれようとも、話しません。
どっかで、やっちゃおう。 辰ちゃん、いるか。 鳥の鶴は、なんで「つる」っていうのか、知ってるか。 今、仕事が忙しいんで、帰ってくれないか。 話がしたいんで、しゃべるから、勝手に仕事をしろ。 鶴は、首が長いから、大昔は首長鳥と言っていたんだ。 昔、ある白痴の老人が浜辺に立って、小手をかざしてはるか彼方を見ると、オスの首長鳥が、とんもろこしをくわえて、「つーーー」っと飛んで来て、松の古木に止まった。 あとからメスの首長鳥が……。 さよなら。
隠居さん、これこれの後は、何でしたっけ。 お前、どっかでやったな。 白痴はお前だ、とんもろこしじゃなくて唐土(もろこし)だ。
辰ちゃん! また、来たのか。 辰ちゃん、さっきの話だけど、オスの首長鳥が「つーるー」っと飛んで来て、松の古木に止まった。 あとからメスの首長鳥が……、ヴァァァーーー。 何だ、どうした。 黙って、飛んで来た。
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