三遊亭萬橘の「藪入り」後半 ― 2025/12/06 07:12
何か匂うぞ、おまんま焦げてるんじゃないか。 焦げたのは、俺が食う。 何だ、用があるなら、中へ入って来い。 めっきり、お寒くなりました。 只今、帰りました。 お父っつあんも、おっ母さんも、お元気で何よりです。 お前さん、挨拶しておくれ。 はい。 ご遠方から、ご苦労さんでござんす。 只今は、ご丁寧なご挨拶で、恐れ入ります。 これから、今日から、兄弟同様のお付き合いを…。
吉兵衛さんから聞いた、お父っつあん、風邪、大丈夫。 あたいだけ、帰る訳にいかないから、手紙を書いたよ。 いつもは風邪なんて、玉子酒飲んで寝ちまえば治るのに、近くの医者が浣腸すればというが、治らない。 子供の頃から掛かってる重田先生が、これは肺炎だって、布にカラシ塗って、前や後ろに貼ってくれた、ベトベトで、汗が出なくて、舌出して犬みたいにハアハア言っていた。 吉兵衛さんがお前の手紙を持って来てくれたら、ペロッと治った。 それから風邪を引いたら、お前の手紙を読もうと思っているが、風邪引かない。
足を崩せ。 正座の方が楽なんだ。 正座の方が楽か、おっかあ、余所のおまんま食べさせなきゃあいけないんだな。 これは、おかみさんが、みんなに持たせてくれたんだ。 これは番頭さんに聞いたお菓子、小遣いで買って来たんで、お父っつあん、おっ母さん、食べて下さい。 聞いたかい、自分の小遣いで買ったのか、嬉しいね。 三年でね。 よかったね。 ベロベロベロ!
お前のお店の前を、お父っつあん、通ったことがあった。 お前が出て来た、太った子と一緒に。 それを見ていて大八車にぶつかられて、つい、ありがとうございますって、言っちゃった。 七夕の日、鼠の罠をかけて、ペストの懸賞で一等になったんだ。
お湯へ行って来い、ご近所の方が、背中を流してくれるから。 その着物脱いで、そこの印半纏で、三尺の帯を締めていけ。 おっ母さんの下駄を履いてけ。 桶の中にシャボンと、お父っつあんからの湯銭が入ってる、出させてやりなさい。 見栄張りてえ、オットセイじゃないんだが。 どぶ板、気をつけろ。 その犬、駄目だ、噛むようになってる。 ペロペロ舐めてる、覚えているんだよ、お前さんには噛みつくのに。
帰ってくるかな。 おっかあ、野郎、大きくなったろうね。 お前さん、いっぺんも見てないのかい。 顔、あげられなくなっちゃったんだ。 煙草盆を掃除していた。 正座なんかして。 その方が楽なんだ。 おっかあ、見てみろ、着物脱ぎっぱなしだ。 お土産、神棚に上げとけ。 後で、町内に一つずつ配るんだ。 少しは、自分でやったらどうなんだい。 小遣い、戻してやろうと、がま口、見たんだよ。 こっちが、もらいたい。 これ、どうしたのかしら、大変だよ、底の方に、五円札が三枚、小さく畳んで入っている。 十五円だよ。 何、言ってんだ。 桐箪笥、二竿買える。 いいことをしたんだよ。 心配するのが親だよ。 だから、私心配、一人っ子だろ、しつけたことはあったけれど。 何だってんだ、はっきり言え。 あの子、優しいから、仲間に言われて、奥の箪笥の下の二番目から…。
亀が泥棒したってんのかよ。 情けないけれど、そうでもなければ……、魔が差したってことだよ。 子供の頃の、お前さん、思い出してみなよ。 おーー、野郎、やりやがったな。 めっきり、お寒くなりました、なんて首っ玉にくらいついて、小便もらしてたんだ。 話を聞くんだよ。 お前は、入ってろ。
帰って来た。 根っからの悪い目付きだ。 町内の方に、良くして頂いたんで、よくお礼を言って下さい。 大きくなったな、お前、白らばっくれるな、目を真っすぐ見られるか。 がま口覗いた、十五円、どうしたんだい、金。 どうしたんだか、言ってみろ。 もらったんだよ。 朋輩かなんかに言われて、やったのか、おっ母さん似か、お前は。と、打つ) 話を聞くんだよ、話を。 おっ母さんが、小遣いをやろうと、がま口を見たんだ。 話をしておくれ、泣いてちゃあ、わかんない。 誰にもらった。 お父っつあんが、心配して、こんなことになった。 ウッ、ウッ、旦那様が交番から十五円、鼠の懸賞に当たったのを、取っておいてくれて、「宿入」で、お父っつあん、おっ母さんを喜ばしてやれって、渡してくれたんだ。 盗ったんじゃない、もらったんだ。 運がいいんだな、鼠の懸賞に当たったのか、これが本当の中吉だな。
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