経済学者の石仏2005/11/22 08:19

 千種義人先生は『大分の石仏を訪ねて』の冒頭「石仏の魅力」の章に、こう 書いている。 「「人間の愛情と美的享受はわれわれが考えうる最大の善のすべ てを含んでいる」というムーアの言葉(G.E.Moore『倫理学原理』1903年)は私 の脳裏に深く刻まれていた。 経済学者ケインズもムーアに傾倒してブルーム ズベリー・グループで、人間交際の楽しみを体験し、リディア・ロポコヴァと いうロシアのきれいなバレリーナを射止め、ケンブリッジに芸術劇場を建てた。 しかし私にできることはせいぜい石仏を愛好して、それを写真に美的表現する ことだけである」

 そして苦笑を禁じ得ないのは、最後の章で石仏の持つ経済学的意義を考察し ていることである。 第一に、昔の石仏造顕には営利的動機はなかった。 第 二に、石仏造顕の費用は領主、寺院、信者、村落の有志などによって負担され た。 第三に、石仏は信仰心から造られたものであるが、経済的に望ましい影 響、つまり経済的効果を生む。 その一つは、当時の職人に労働の機会を与え、 「雇用の増大」に役立った。 もう一つは、「外部経済」をもたらした。 (こ こで外部経済の説明がある。ある人の行動が他の人に利益または不利益(損害) を与えるが、その利益が市場を通してお金に算定され、利益を得た人から利益 を与えた人に代価が支払われない場合が外部経済であり、その不利益が市場を 通してお金に換算され、不利益を与えた人から不利益を受けた人にお金によっ て補償が行われない場合が外部不経済である。) つまり、石仏は特別な場合以 外、無料で拝観できる。 石仏の三つ目の経済的効果は、「公共財の供給」、つ まり公共的に使用または観光される。 結論、石仏は経済的に、「雇用の増大」 「外部経済」「公共財の供給」となって経済的福祉を高めることになる。

 以上、きのう、私が真面目一方の講義であったといった意味が、お分かりい ただけたのではないだろうか。