雲助の「富久」長演2005/11/28 07:55

11月22日の第449回落語研究会、トリの五街道雲助が高座に上がったのは 午後8時25分だった。 昔は信仰心が篤かった、一生に一度は伊勢詣りへと 言っていた、突然店を飛び出すのもあって「抜け詣りからぐれ出して」という 台詞があるが、それでも大神宮様の御札と何かを土産にすれば許されることも あった。 伊勢の方から出張って来る「御札配り」というのもあって「えーっ、 大神宮様のお払い」と、大神宮を仕込んで「富久」に入る。

千両富は、今の一億円ぐらいはするだろう、大層な金。 でも、当たらない、 「富くじの引き裂いてある首くくり」。 浅草三軒町の長屋の奥、ごみ溜めとハ バカリの間、ハサミムシみたいな所に住む幇間の久蔵、「しばらくお会いしない 内に、ご無沙汰しておりまして」なんて変な挨拶をして、旦那をしくじった上、 「堅田の雁が音」(借金)で首の回らない、なけなしの一分で、世の中を倅に譲 った人から、椙杜(すぎのもり)神社の千両富の籤を買う。 鶴の千五百番。  ほかに何もないけれど芸人だから持っている立派な大神宮様のお宮の中に籤を 入れ、お神酒を下ろしてチビリチビリ、千両当たったらどうしよう、気の利い た女房もらって小間物屋をやろう、いや芸者の置屋がいいな、若い妓にかたっ ぱしから手をつけて、なんて言いながら寝てしまうと、火事の半鐘。 長屋の ハバカリの「へ」の字になった屋根に上がった近所の人が、芝見当、新橋から 久保町あたり、久蔵がしくじった旦那のあたりじゃあないか、と教えてくれた。  しめたと、走って駆けつけ「お騒々しいことで」、案の定「また出入りしなよ」 と許される。 久蔵が、船箪笥、長火鉢、針箱、瓢箪を風呂敷包みにして背負 おうとして、また逆に順々に下ろしている内に、火事は湿った。 顔を知って いるからと、見舞い客の帳付け役、ご本家からお重におでんの総仕舞いにした のをそれぞれ串に刺したもの、お酒が二升、一本は冷、一本は燗というのも、 気が利いている。 久蔵は旦那に「どうしましょう」と、たびたび訊く。 「そ っちの方にやっておきな」と、つれないが、「せっかくの気の利いたお見舞いを 燗ざましというのも、なんなのでございます」とあんまりしつこいので、とう とう久蔵は悪い癖の酒にありつく。 酌をしてくれたお兼どんに「いい女にな ったね」と世辞をいう。 ここまでで、ちょうど30分かかった。   酔っ払って寝込んだところに、今度は浅草三軒町あたりが火事。 火元は糊 屋の婆ァで、爪に火をともすように金を貯めていた、その火が燃え移った。 久 蔵の家も丸焼け、ふらふら歩いていると、人形町で駆け出す人がいる。 椙杜 神社の富だ。 わあわあ、言っている中には、千両当たったら「庭に池を掘っ て、酒でいっぱいにして、ふんどし一本になって、片手にするめを持って飛び 込んで、しこたま飲んで、そのまま溺れ死んでみてえ」なんて奴もいる。 あ とは、ご存知の展開で、「へえ、これも大神宮様のおかげですから、ご近所のお 払いをいたします」となったのは55分、あと5分で1時間だった。 熱演の 雲助も、聴いていたわれわれも、この日記を読んでくださった方々も、みんな、 くたびれた。