夏の英国、よく晴れた朝 ― 2006/07/09 08:49
イギリスの田舎のいたるところに、エムズワース伯爵のブランディングズ城 のように、領主の住む城館(キャッスル)、邸宅(ホール)、お屋敷(マナーハ ウス)があったという。 年中さぞやうっとうしい天気が続くのであろう、高 緯度のイギリスでは、夏という季節は貴重である。 とりわけ、夏の朝。
エムズワース伯爵は、ベッドから出て、窓の外を覗いた。 すばらしい朝だ。 夜中に雨が降ったせいで、クリーニングから戻って来たばかりのような世界が 陽光のもとで輝いていた。 なめらかな緑の芝生に杉の木が長い影を落として いる。 ミヤマガラスが優しく鳴き、ツグミは流れるように歌い、空気は夏の ざわめきに満ちている。 昆虫の世界では、特大のユスリカが舞い飛んでいた。
夏のさなか、そのブランディングズ城の庭園は美の絶頂にあった。 アキレ ア、ビグノーニア・ラディカンス、カンパニュラ、ジギタリス、ユーフォービ ア、ファンキア、ジプソフィア、ヘリアンサス、アイリス、リアトリス、モナ ルダ、フロックス・ドラモンディ、サルビア、サリクトラム、ヴィンカ、そし てユッカが輝き溢れていた。
だれもが、お天気好きで、花好きのエムズワース伯爵が、顔中に笑みをたた えて浮き浮きと歩き回っていると、思うだろう。 そうは問屋が卸さないとこ ろが、『受難録』の『受難録』たる所以なのである。
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