さん喬の「もう半分」2008/09/03 07:20

 さん喬は「もう半分」の舞台を、永代橋の橋詰、寒い雪の日に設定した。 永 代橋という憶えがなかったので、志ん生の速記を見ると、千住の小塚ッ原、橋 は千住大橋、ついでにさん喬でほうれん草のおしたし、芋の煮っころがしにな っているツマむものは、紅生姜、鉄火味噌、ついでに一膳飯を売ると、なって いた。 「もう半分」は志ん朝もやったが、だんぜん兄貴の馬生の方が、陰気 さが柄に合って、怖かった。 そういえば、馬生も芋の煮っころがしだったよ うな気がする。

 さん喬のは、計算が細かい。 一杯十六文の酒が、半分ずつ四回飲んで三十 二文、それにお芋で四十二文、酒好きで意地汚い爺さんは、相客が帰り仕舞の 客になったのに、「もう半分」追加して五十文を払う。

 さん喬では、途中まで居酒屋の夫婦の年齢がわからなかった。 問題の五十 両で蔵前に店を買って繁昌し、夫婦は奥でぼんやりしている日もある暮しにな って、ヤヤが出来たよ、よかった、でかした、となる。 志ん生だと、事件の 当日、おかみさんは今日生まれるか、明日生まれるか、という身体だった。

 真夜中、エンジ(遠寺、煙寺とも書くらしい)の鐘がゴーン。 寝ていた赤 ん坊が、ひょいと立って、ツツーッと歩き、行灯の蓋を上げて、油の皿を口へ 持っていって、グビリ、グビリ飲む。 子供がひょいとこちらを見て、「ヘッヘ ッヘ、もう半分」。 八月に雪の日にした仕込みも効いたのか、柄の馬生にくら べ、柔和なさん喬だが、ゾーッとするほど怖かったから、上出来だったという べきだろう。