考えるヒント、二、三 ― 2008/09/18 06:28
いろいろと教えられ、感ずるところの多かった『二十世紀を読む』から、最 後に「考えるヒント」のようなものを、抄録で紹介しておく。
○四方田犬彦『先生とわたし』(新潮社)を読む
四方田犬彦さんの先生、由良君美さんは西脇順三郎ゼミの出身、私の学生時 代、慶應の経済学部で英語を教えていて、1965年に日本英文学会で講演したの が縁で、東大教養学部英語科の助教授に招かれた。 (四方田が入った)最初のゼミで由良は「(文学は)神話伝承からお伽話、近 代の小説、現代の前衛的な言語芸術まで、そこに同一の人物形象やテーマ、状 況が繰り返し登場している。その原型となるものを見定めないかぎり、文学研 究は成り立たない」と基本原則を述べ、ユングのいう〈古代残滓〉、人類の無意 識に共通に横たわる匿名の要素の意義を主張した。つまり人間の原始的な本能 の中にあった、ある宗教的なもの、それが現在まで文芸の原型としてつながっ ている。さらに続けて、方法論として「この集合的無意識は、意識の表面に浮 上するとき、特定のパターンを媒介として現れる。それが〈原型〉であり、そ の原型という考えを適用することで、西洋東洋を問わず、古代から現代までの 文学における普遍的なものを抽出できるのではないか」と。これは由良の卓見 だと思います。(櫻井さん)
○米原万里『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(角川文庫)を読む
米原万里さんは、父親が日本共産党を代表して1960年から66年までプラハ の『平和と社会主義の諸問題』誌の編集局に勤務していたので、10歳から14 歳までソビエト学校に通っていた。ソ連社会主義体制の崩壊後、その頃の友達 を訪ねている。 チャウシェスク体制が崩壊したルーマニアでは、人々の顔が険しくて生気が ない、案内の運転手に聞けば、権力が「入れ替わっただけ」だという。 民主 主義的な権力批判が弱い、あるいは欠如している社会では、そういう権力がく りかえし生み出されてしまう。 ポーランドとかチェッコも、民主化した自由 化したと西側はしきりに持ち上げるが、程度の差はあれ、同じような状況で、 実態はわれわれが西側の情報で知っているのとはかなり違う状況なのではない か。 日本のジャーナリストは、そういうところをきちんと調べて書いてほし い。 万里さんは、自分の友達を語ることを通して、それをやった。(小島さん)
○丸山眞男・福田歓一編『聞き書 南原繁回顧録』(東京大学出版会)を読む
126頁 内村鑑三『後世への最大遺物』に引かれた天文学者ハーシェイのこ とば「愛する友よ。われわれが死ぬときには、われわれが生まれたときよりも、 世のなかを少しでもよくしていこうではないか」。これが南原先生の白雨会の仲 間の誓い。(石井さん)
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