「鴎外の恋人」の実像を求めて2010/11/23 06:52

 19日NHK・Bshiで「鷗外の恋人―百二十年後の真実」を見た。 今年は森 鴎外が処女作『舞姫』が発表して120年目にあたるのだそうだ。 この小説は、 鴎外がドイツ留学時代の体験をもとにして書いたもので、登場する恋人“エリ ス”には実在したモデルの女性がいて、鴎外のあとを追って来日したが、森家 の説得によって帰国したということは知っていた。  番組は、鴎外記念本郷図書館にある鷗外の遺品、森林太郎・MとRのイニシ ャルを組み合わせたモノグラムが刻印された錫板(型金)を手がかりにして、 この「鴎外の恋人」の実像に迫る。 ドイツの各地まで出かけての謎解きの進 行は、一篇のミステリーを読むようで、とても興味深かった。 リポーターは モデル、エッセイストの華恵、語りは石坂浩二。

 番組にも登場する「テレビマンユニオン」のディレクター今野勉さんは、鷗 外のドラマを演出した1978年、この型金がリネン類やハンカチに刺繍するた めのもので、ドイツでは婚約が成立したときに相手の男性に贈る風習があり、 型金の上方中央に女性のイニシャルと思われるWとBの文字が隠されている ことを突き止めた。 また問題の女性が、ブレーメンから横浜までの720円と いう多額の旅費を支出したことからも、小説の貧しい踊り子などではなく、中 流以上の家庭の女性であるとした。

 森林太郎は、1884(明治17)年陸軍省から派遣されてドイツに赴き、衛生 学を学んで、1888(明治21)年9月8日に帰国した。 その4日後、横浜に 着いたドイツ船ブラウンシュヴァイク号の乗客名簿の一等船客にMiss Elise Wiegert の名があることが、当時の新聞から発見され(森まゆみさんの『鴎外 の坂』によると、1981年にこれを発見したのは地理交通研究者の中川浩一さん ら、船名はゼネラル・ヴィーダー号)『舞姫』のエリス・ワイゲルトのモデルは エリーゼ・ヴィーゲルトであるとされていた。 しかし型金にWはあるが、E はない。

 2000年に関西大学法学部教授(民法)の植木哲さんが、当時のベルリンの住 所録を調査し、鷗外の下宿の近くにアンナ・ベルタ・ルイーゼ・ヴィーゲルト (1872年12月16日生れ)を発見する。 番組は型金に、手彫りによるWと Bのほかに、AやLも読み取る。 鴎外を追ってきたのは、15歳の少女なので あった。 でも15歳の少女が一人で一等船客となり日本に来られたのか、そ してエリーゼと名乗ったのはなぜか。 ドイツの現地へ飛んで、探求は続く。