芝浜の革財布<等々力短信 第1035号 2012. 5.25.>2012/05/25 02:04

 前進座の五月国立劇場公演『芝浜の革財布』を観た。 ご存知、落語『芝浜』 の歌舞伎化である。 三遊亭圓朝・原作、平田兼三・脚色とある。 だが従来、 圓朝が「酔っ払い・芝浜・財布」でまとめた「三題噺」とされてきたけれど、 『圓朝全集』に載っていないことなどから、疑問視するむきもある。 それは ともかく、『芝浜』は三代目桂三木助の十八番で知られた落語の大ネタで、暮に なるとよく聴く。 私が永年通っている隣の国立小劇場の「落語研究会」で、 古くは先代の小さんと馬生、志ん朝と先代円楽が二度ずつ、近年も2005年に 権太楼、2008年に雲助、昨年も扇遊が演じている。

 非常口の表示も消えて、いきなり真っ暗闇になった。 そこへうっすらと青 い芝浜の夜明けの景色が浮かんでくる。 女房のお春(山崎辰三郎)に刻を間 違えて起された魚屋熊五郎(藤川矢之輔)が、四十八両入りの革財布を拾らう (この芝居、「ひらったんだよ」と発音する)場面だ。 慌てて家に帰ると、明 六ツの鐘が鳴り、納豆の売り声。 にっちもさっちも行かなくなって、夫婦で 約束の証文を交わし、お春が露月町の叔父さんから仕入れの元手の二貫五百を 借りて、浜の河岸へ送り出していた事情が判明する。 一、夫婦仲良く稼ぐ事 一、お酒飲まぬ事 一、朝早く起きる事 一、そしてぐずぐず言わぬ事。

 三味線に鉦の音で、次の幕が開き、気の大きくなった熊五郎、長屋の連中を 集めて、飲めや唄えの大騒ぎ。 と、芝居は、場面転換に使われる音響効果が、 実に効果的だ。 ほかにもお勤めの法華の太鼓と拍子木、ボォーンと鐘の音、 「めでためでたの若松様よ 枝も栄える葉も茂る」の唄で、正月を迎える準備 というように…。

 登場人物も当然、落語より多い。 「奢られっぱなしってえのは、いくじが ねえや」と、まず呼ぶのが大工の金公、その女房お六は手伝いに来る、宴会と なる長屋の住人は、占者、落語家、流しの芸人、願人坊主が二人、人足、ご馳 走になって嬉し泣きの浪人者。 大詰、三年目の大晦日、立派になった魚熊の 店兼住居に、勘定を届けに来る得意先・河清の女将、手伝いに来た露月町の叔 父さんの娘お花と、その店の手代仙太郎。

 お家主さんに相談し、酔っ払って寝た熊五郎を起し、財布を拾ったことを夢 にして、魚熊の料簡を改めさせたお春。 落語だと、笹の葉の音がさらさらい い、畳の新しいのはいい匂いだ、という大詰。 打ち明けたお春に、「俺はお前 に礼を云うぜ」と熊五郎、芝居では、お春に渡された手拭で涙をぬぐった。 「ま た夢になるといけねえ」で下げにはせず、除夜の鐘、ほのぼのとした正月気分 の酒になるのだった。

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