フランスやイギリス、強固な階層社会2012/11/01 06:35

 内田樹さんは、日ごろ社会や政治の問題についても、いろいろ発言をしてい る。 言語についての『街場の文体論』にも、ところどころに顔を出し、面白 い見方や鋭い意見がある。

 例えば、階層社会に対する見方(第7講)。 フランスも、イギリスも、強 固に構築された階層社会だという話だ。 階層社会というのは、単に権力や財 貨や情報や文化資本の分配に階層的な格差があるというだけでなく、階層的に ふるまうことを強いる標準化圧力そのものに格差がある社会だという。 こん なことは、まったく知らなかった。

階層上位の人は、その階層的な縛りから自由で、社会的にも流動的でありう る。 それでワーキングクラスのファッションや音楽も楽しむことができるし、 外国にも出かけることができる。 政治体制が違う、宗教が違う、食文化が違 うというところに行っても、そこの人たちと気楽に対話できる。 つまり自由 に異文化を行き来できる。 下層の人はそれができない。 誰と会っても、ど こに行っても、自分の街にいるときと同じ言葉づかいで、同じようなふるまい をしてしまう。 型にきつくはまりすぎて、もう脱げないのだ。 この他者と 応接するときの自由度の差が、社会的に成功するチャンスに有意な差をつける、 というのだ。

 下層に行けば行くほど、階層的な締め付けが厳しくなり、自由度はどんどん 少なくなる。 それ以外のふるまい方ができないようにお互いに監視し、逸脱 するときびしい罰が加えられる。 下層階級なのにクラシック音楽を聴いたり、 詩を読んだり、「趣味はクリケット観戦」とかいうことは許されない。 ラップ を聴いて、サッカー観戦することを強いられる。 他の誰でもなく、自分たち の属する集団から禁圧される。 そして、本人たちはそんなふうに自由度を制 約し合っていることに気がついていない。

日本社会の変化と「就活」2012/11/02 06:28

 『街場の文体論』、第10講「『生き延びるためのリテラシー』とテクスト」 には、たいへんな勢いで社会が変化しているという話がある。 東アジアは今 ホットで、なかでも中国とインドの変化は激しい。 日本でも若い世代は、社 会が変わりつつあるということに気づいている。 ただ、どの方向に、どう変 わるかについては誰も教えてくれない。 新聞もネットもTVも、あるいは周 りの大人に訊いても、これからいったい日本はどうなるのか、誰も知らない、 答えられない。

 友人平川克美君は今の日本を「移行期的混乱」のうちにあるといっている。  第一の徴候は少子化だ。 人口が減り、市場が縮小し、経済成長も終わり、老 人だけが増える。 前代未聞の事態だから、成功体験の前例がなく、自分で探 すしかない。

 「移行期的混乱」の中で君たちはこれから結婚して家庭をつくっていくこと になるわけだけれど、これからは「本当に新しいもの」をつくってゆかないと 間に合わない。 古い制度は、もう賞味期限が切れている。 たとえば「就活」。  君たちもこれからする人、もうしている人がいると思うけれど、すごく変でし ょう、今の日本の雇用状況。 すごく不自然だと思う。

 なんだかんだ言っても、日本はまだ世界第三位の経済大国で、富裕層はいっ ぱいいるし、いくつかの企業は莫大な収益を上げている。 でも、どうして雇 用環境が悪いかというと、それは不況のときに、人件費をカットして、利益を 上げて、味をしめた記憶が残っているからだ。 収益を上げる方法を他に何も 思いつかない経営者はとりあえず採用条件を悪くして、高い能力があって賃金 の安い労働者をこき使って利益を出すという方便に逃れた。 不自然なシステ ムだけれど「長引く不況のせい」と言えば、個人責任は免れることができる。  全部「不況のせい」に丸投げして、雇用環境を好転させるための企業努力を怠 っている。

 そういうのに見切りをつけて、そうした企業に就職しないとか、もっと楽し そうな仕事を探すという方向へのシフトはもう起きていると思う。 生物とし て「元気のいい人」はこういうバカバカしいことに耐えられるはずがない。 大 学二年生から青筋立てて走り回るなんて「間違った状況」に対しては、これは 変だ、変だからやらないというのは、「生き延びるリテラシー」からすれば正し い反応だ。 これはおかしいとか、納得できないとかいうことに関しては、自 分の感覚を信じたほうがいい、何しろ移行期的混乱のうちにあるわけだから。

西村淳さんの『身近な物で生き残れ!』2012/11/03 06:28

 新潮社のPR誌『波』の古いのを整理していて、面白いものを見つけた。 南 極料理人という肩書(「料理人」は、あなどりがたい)の西村淳さんの、『身近 な物で生き残れ!』あなたを救う南極観測隊流サバイバル・テクニックという 連載である(2007年9月号から一年間)。 コーチはじめさんのイラストが抜 群にわかりやすく、このイラストがなければ、私も見逃していただろう。 東 日本大震災より三年以上前の連載で、2008年9月に新潮文庫に入っている(文 庫にイラストのあらんことを…)。 被災された方で、これを読んだ方がいたら、 ずいぶん役に立ったのではないか、と思われた。

 西村淳さんは1952年北海道留萌市生れの海上保安官で、第30次南極観測隊、 第38次南極観測隊ドーム基地越冬隊に参加、外部からの補給が期待できない 延2年8か月の生活を経験し、サバイバル技術を磨いた。

 明日起こるかもしれない巨大地震といわれていた明日が来て、あらゆる家具 は移動し、倒れ、粉砕され、ガラス類はすべて割れて、ゴジラが大暴れした状 態になったとしよう。 人間、唖然呆然としてしまうのは当り前だが、悲嘆に くれて日常活動をやめてしまう人より、「あらら、こうなっちまったか。まずど うするか、お茶でも飲んでから考えるか」と、一度心をリセットして、その後 の処理に当る人の方が、格段に立ち直りパワーが強い、という。

 親父たるもの、男権・父権復活はこの時とばかり、非常食糧・グッズを取り そろえた防災バッグを最近東急ハンズで購入していたことを神に感謝しつつ、 懐中電灯も、その中に入っていたことを思い出す。 だが防災バッグは、ゴジ ラの大暴れの下に埋もれていて、片付けて取り出すだけで一週間はかかるだろ う。 嗚呼…。

身支度、トイレ、水の確保2012/11/04 06:59

 大地震に遭遇したら、まず、〔身支度〕である。 何が落ちて来るか、わから ない。 当然、身近にヘルメットなどないだろう。 週刊誌を二、三冊、頭に 乗せ、ガムテープか、セロテープ、紐、バンド等で固定する。 一撃で死んで しまう頭を守り、その恰好が非常時の緊張を和らげる効果もある。

 履くものは、スニーカーと考えるだろうが、スニーカーは最悪、防水性がな く、瓦礫の山から出ている釘や突起物に弱い。 普通の皮靴がベストだ。 さ らにズボン(パンツ)の先を、靴下にたくしこむ。  足元にも、週刊誌を巻き込んで、ガムテープで固定すれば、危険に耐える特 殊部隊仕様となる。

 困るのは、〔トイレ〕である。 これは、段ボールでつくる。 中に大き目の ゴミ袋。 底に紙おむつか、ペットのトイレシート、なければ新聞紙、吸湿性 のあるものを敷く。 前に、つかまるもの(棒)があるといい。 臭い消しに、 洗濯洗剤(粉末)をかけ、溜まったらゴミ袋ごと捨てる。 マンションのベラ ンダのような所に設置した場合、用を足しているサインを決めておくと、いや な思いをしなくて済む。 連載の末尾に、南極仲間の米山ドクターから、段ボ ールは雨で哀れなことになるから、ゴミ用のポリバケツと、厚手の発泡スチロ ールに穴を開けた便座がよいとの提案があった。

 〔生活用水〕の確保。 まず、水道の蛇口をひねってみる。 案外、屋上の タンクなどに、水が残っていることがある。 「水タンク」…段ボールか衣料 用のプラケースに、ゴミ袋を二重にして入れる。 飲み水には、煮沸消毒する。  「水取り大作戦」…ブルーシートを張ったり、レインコートを同じようにして、 雨水を確保する。 夏で、エアコンが使えれば、除湿機能を使って、水を溜め る。

 【教訓】週刊誌、ガムテープ、革靴、段ボール、ゴミ袋などを、ガラクタの 下にならない、身近に置いておくこと。

〔寒さ〕対策、〔火〕と〔灯火〕2012/11/05 06:32

 〔寒さ〕対策。 寒さは知恵で乗り越える。 「ゴミ袋コート」…ゴミ袋2 枚に穴を開け、上はかぶり、下は穿く。 「合体新聞紙ダウンベスト」…上「ゴ ミ袋コート」のゴミ袋の中に丸めた新聞紙を入れ、下着の上に着込み、紐など でとめる。 「発泡スチロールベスト」…新聞紙の代わりに、砕いた発泡スチ ロールを入れる。 「サランラップ大作戦」…下着の上にグルグル巻きする、 キツ過ぎないように。 「サンドイッチ靴下」…靴下にラップを巻き、重ねて もう一枚はく。 「唐辛子作戦」…靴下のつま先にティッシュで包んだタカノ ツメを入れる。 「特別編」…屋外では、けして酒を飲むな。 コーヒーに練 乳のチューブを一本入れると、ひどく甘いけれど暖ったまる。

風呂に入れない間、「足湯」がお勧め。 寒さの本場、南極でも効果的だった という。 ぬるま湯を半分入れたバケツに足を入れ、我慢できないところまで 熱湯を足していく、10分で身体中ぽかぽかになる。

 「焚き火」…〔火〕のおこし方、火種を得るには、単一電池3本をガムテー プで直列につなぎ、底(マイナス)に挟んだ台所用スチールたわし(商品名ボ ンスター)の先をビロビローンと伸ばしてプラス極にチョンチョンとつける。  薪に燃え移らせるのには「文化たきつけ」(北海道の着火剤)も便利。 秋に北 海道のDIY SHOPに出る(通販もある)薪ストーブ(1980円のもある)と煙 突、買っておいて損はない。  マンションなら、七輪、炭、練炭を用意しておくのが、お勧め。

 〔灯火〕「明かり」の工夫もいろいろある。 即席「牛乳パックろうそく」… 開いて乾燥させたものを、交互に切れ目を入れ軽く引っ張ると、長い帯状にな る(七夕飾り風)、針金に端を固定し、どこかにぶら下げる、下に水を張ったボ ウルを用意し、一番下に火をつける、ポヤポヤ30分以上燃える。 「火皿(食 用油)」…皿に油(食用油)を入れ、Tシャツ・タオルなどの生地を細長く切っ て、芯にする。芯は皿の外に出す。下に一回り大きな皿を敷く。 「バターろ うそく」…バターの箱の一面を切り取り、ペーパータオルなどの紙をぐりぐり 丸めて細い芯をつくる。千枚通し・金属の菜箸・太目の針金を熱して、バター の真ん中に穴を開け、芯を差し込む。しばらくして芯に油が滲みたら点火、若 干スス出るけれど実用には十分。お茶にもバターを入れるくらいバター好きの チベットの人たちは、灯り用にもバターを使い、お寺には巨大なバターろうそ くが灯っているという。