日本と交易のあるラグナグ王国へ行くまで2024/04/02 06:58

 ガリバーは、この国バルニバービが属する大陸は、東はかの未知の地アメリカ、カリフォルニアの西端につながり、北へ行けば首都のラガードから200キロで太平洋に達すると考えた。 バルニバービの北岸にはよい港があり、そこから北西、北緯29度、東経140度(小笠原諸島の北西、鳥島近く)の地点にある大きな島ラグナグとの貿易が盛んだ。 ラグナグは、日本の約500キロ南東にある島だ。 日本の帝(みかど)とラグナグの王とは親密な友好関係にあり、両国のあいだでは船舶の行き来も頻繁にある。 そこで、ガリバーは欧州に戻ることを視野に入れて、まずはこのラグナグへ行くことを決めた。

 マルドナーダという港町に着くと、ラグナグへの船は今後1か月は出ないという。 地位のある紳士と知り合いになると、南西25キロばかりにあるグラブダブドリブという小さな島に足をのばしても楽しいのでは、友人と二人で同行すると誘ってくれた。 グラブダブドリブとは、「魔法使い」もしくは「呪術師」の島の意、きわめて豊かな土地で、全員が魔術師である一族の長が島を治めている。 この島主とその家族に仕えているのは、島主が妖術を使って死者たちの中から好きな者を呼び出した召使いたちだった。

 島には10日間滞在し、島主から、誰でも好きな人物を呼び出してよろしい、世界の始まりから現在までに至るすべての死者のなかから何人でも呼び出して、それぞれ本人の生きた時代に限って何でも訊きたいことを訊いてよろしい、と言われた。 誰もが真実を語るはずだ、冥界では嘘をつく能力は無用だからと。 ガリバーは、ハンニバル、カエサル、ポンペイウス、ホメロス、アリストテレス、デカルトなど、おびただしい数の偉人傑人を呼び出してもらい、古(いにしえ)の世界のあらゆる時代を見たいという欲求を心行くまで満たすことができた。 近年の死者たちにも会ったが、近年の歴史は嫌悪させられることが大半だった。

 マルドナーダに戻り、2週間待つと、ラグナグに発つ船の準備が整った。 船旅は1か月続き、一度激しい嵐に遭い、300キロにわたって吹く貿易風圏に入るために針路を西にそらす必要が生じた。 1709年4月21日、ラグナグ南東端の港町クルメグニグに着いた。 役人は交易のあるバルニバービ語を話したので、ガリバーは、オランダ人だと名乗り、日本に行くのが目標だと言った。 日本に入国を許される欧州人はオランダ人だけだと知っていたから、そう名乗るのが得策だと思ったのだ。