チャーチル首相の松岡洋右外相宛書簡2024/06/02 07:31

 そこで、松岡一行を先回りしてモスクワで待っていた、チャーチル首相が松岡洋右外相に書いた1941(昭和16)年4月2日付の手紙である。

 この際、日本帝国政府と日本国民の皆さんが、もっと注目してもおかしくない問題点をいくつか並べさせてもらいます。

 I 制海権も制空権もないドイツが、今年の夏または秋までにイギリスへ侵攻し征服することができるでしょうか。ドイツは実際にトライするでしょうか。こういった見通しがつくまで待ったほうが日本の利益になりませんか。
 Ⅱ 英米両国が全産業を戦争目的にシフトさせるなかで、イギリス船によるアメリカの援助物資の海上輸送をストップできるほど強力な攻撃力が、ドイツにはありますか。
 Ⅲ 日本の三国同盟加入によって、アメリカが参戦する可能性は高まりましたか、それとも低下したでしょうか。
 Ⅳ アメリカが英国側、日本が枢軸国側で参戦した場合ですが、英語2ヵ国連合は優勢な海軍力によってヨーロッパの枢軸国と決着をつけてから、日本に対して総力をぶつける可能性があるのではないでしょうか。
 Ⅴ イタリアはドイツにとって頼りになるパートナーですか、それともお荷物ですか。イタリア海軍の実戦力は、名目戦力ほどにととのっていますか。また、その名目戦力ですが、過去の戦力より劣っているようなことはありませんか。
 Ⅵ イギリス空軍は1941年中に増強され、1942年いっぱいにはドイツ空軍より、はるかに強大になっていませんか。
 Ⅶ ドイツ陸軍と秘密警察(ゲシュタポ)に服従させられている諸国は、やがてドイツが好きになるものなのでしょうか。
 Ⅷ 1941年中には、アメリカの鉄鋼生産高が7千5百万トン、イギリスは1千2百万トン、両国あわせると約9千万トンになるのではありませんか。第一次世界大戦のように、もしもドイツが敗戦する場合、日本の鉄鋼生産7百万トンでは単独で戦争をつづけるのは無理なのじゃないでしょうか。

 以上の問題を解消できれば、日本は悲劇的な結末を迎えないですむでしょうし、日本と欧米の二大海事国との関係はいっそう前進することでしょう。

 私は、このチャーチルの挙げた問題点とアドバイスを、素直に受け取り、一つ一つを真剣に検討、検証したならば、日本はこの年の12月に真珠湾を攻撃しなかったのではないか、と思わずにいられない。