入船亭扇橋の「がまの油」 ― 2025/04/20 07:13
扇橋の出囃子は、唄が入る「いっさいいっさいろん」で、代演することになった桂二葉と同じだという。 元々は、自分が先で二ッ目の頃から使っていた。 ある時、楽屋で二葉に出囃子に「いっさいいっさいろん」を使いたいと言われ、いいですよ、と言った。 そうしたら、二葉がバーーッと売れた。 上方で、私が出ると、エッと言われる。 「がまの油」、憶えていますかと連絡があり、「憶えてます」「じゃあよかった」、それがこれから。
大田区の小学校で、キャリア教育というのか、6年生が15人ぐらいブースで弁護士、保育士、ゲームデザイナー、JAXAの人、落語家にインタビューする。 私の所には、誰も来ない。 女の子が一人、委員長をやっていそうな子が、来た。 夢は何?と聞いた。 夢はない、あったらこの世界に入らない、と。 男の子の夢は、通訳。 資格を取って、日本の文化を広めるために活躍したい。 私なんぞの子供の頃は、十円ハゲで、半袖短パンで、遠くまで歩いていった。 その男の子が、三代目柳亭痴楽「破壊された顔面」に、似ている。 鼻水を垂らして、ヘヘッ、噺家さん、師匠なんですね、マブダチですね。 マブダチ? 前座、二ッ目、マブダチ。 イヤダーッ、真打でした。
悩んだら、浅草演芸ホールへ行くといい。 これでいいんだ、ということになる。 昼か、夜の片方がいい、通しは馬鹿になる。 浅草の奥山、両国の広小路に、見世物小屋がある。 ピンからキリまであって、「六尺の大いたち」「妖怪ベナ」なんか、アメリカだと訴えられる、日本はおだやか。 「弘法の石芋」をご存知か。 おばあさんが祖谷渓で芋を洗っていると、通りかかったお坊さんが食いたいので一つくれと言った。 婆さんが、これは芋でなくて石だと、断わった。 坊さんは怒って、芋を全部石に変えてしまった、坊さんは弘法大師だった。 婆さんが頼んでも、一度石に変えたものは、元に戻らない。 その石には効用がある、頭痛、腹痛、胆石などに効く。 削った粉を、南無大師遍照金剛と唱えて飲めば、たちどころに治る。 これは効くんだと、サクラが買うから、みんなが買う。
同じような話がある。 女房が豆を煮ていると、通りかかったお坊さんが食いたいといったけれど、これは馬にやるものだと、断わった。 坊さんは弘法大師で、杖を一振り、女房の亭主を馬の姿に変えてしまった。 女房が頼みこんで、顔や手足はどうにか元に戻っていった。 股のところにきた時だ。 女房、股だけは、そのままにしておくれ、と。 落語研究会でやる咄じゃない。
浪人風の男、膏薬を入れる貝殻、棗の中に膏薬、ひからびたような蟇(がま)五、六匹を並べて、「その線まで下がって。 さあ、お立会い、御用とお急ぎでない方は、ゆっくりと聞いておいで。 手前取りい出したるは、四六のガマだ。 四六、五六はどこでわかる。 前足が四本、後足が六本、これが四六のガマだ。 このガマの棲める所は、これよりはるか北の筑波山の麓。 オンバコという露草を食らう。 このガマの油を取るには、四面に鏡を立て、下に金網、その中にガマを入れると、ガマは鏡に映るおのれの姿を見て驚き、タラーリタラーリと脂汗を流す。 それを柳の小枝で、三七二十一日の間、トローリトローリと煮詰めたのが、このガマの油だ。 金創(きず)に、切り傷、出痔、いぼ痔、はしり痔、ヨコネガンガサ、腫れ物、その他下(しも)の病、一切に効く。 (刀と一枚の紙を取り出し)切れ物、氷の刃だ、一枚の紙が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚、八枚が十六枚、十六枚が三十二枚、三十二枚が六十四枚、六十四枚が百二十八枚、三月落花の形、比良の暮雪は雪降りの形だ。 これほど斬れる業物でも、(腕を出し)ガマの油をひと塗りすれば、この通り、叩いても、引いても、斬れない。 拭き取るとどうなるか、触っただけで、ほらこんなに斬れる。 だが、お立会い、ガマの油をこうして付ければ、痛みが去って、血がピタリと止まる。 生薬屋の店頭では、ひと貝十六文だが、ここでは十文」。 たちまち、売れる。
たくさん売れて気をよくしたガマの油売り、居酒屋でほうれん草のお浸しかなんかで一杯やった。 酔っ払って、もう一度、売りに出る。 「前足が六本、後足が四本」「棲める所は、これよりはるか南の高尾山の麓……子供、うるさい!」「四面に金網、下に鏡、鏡に映ったおのれの姿に……子供、うるさい!」「アーーア(と、眠くなる)」「生薬屋の店頭では、ひと貝十六文だが、ここでもひと貝十六文」 (刀を抜くが)これは中身のない刀、こちらで「一枚の紙が二枚、二枚が四枚、四枚が五枚、五枚が六枚……騒ぐな、子供たち!」 「これほど斬れる業物でも、ガマの油をひと塗りすれば……、斬れた! だが、ガマの油を付ければ、止まらない! 磨り込めば、止まらない! どんどん塗るが、止まらない! どこかに、血止めはないか。」
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