立川談幸の「夜桜」2025/04/22 07:01

 談幸は濃い丸顔で、縞の着物。 談志が死んで13年、内弟子の頃、ずっと料理をこしらえていた。 たまには談志が、俺がやるといって、野菜を切って炒め、小さな袋を取り出して、パラパラかけている。 よく見たら、お弔いの時の、浄めの塩だった。 あれを溜めておく。 袋の裏を見たら、「食べられません」。 談志のところにテープのライブラリーがあって、オープンリールの「夜桜」があった。 カセットテープにダビングした。 上方の「親子茶屋」、八代目桂文治、前の前の前の文治、昭和30年に亡くなった。 写真を見ると、顔が異常に長くて、黒い、「茄子」と言われた。 デブの円生は、「かぼちゃ」顔。 四代目小さんが、「茄子とかぼちゃの喧嘩」と言った。

 日本人は、桜が大好き。 染井吉野、名所でなくても、近所で見られる。 江戸川区の桜並木、ほとんど人が来ないし、行かない。 上野なんかは、外国の人まで増えて。 近所の公園、寂しいね、向島は工場が建て込んで、煙を出し、桜が煤煙に敗けた。 と、皆が嘆いた。 最近は夜桜のライトアップをやる。 ライトアップしちゃあいけないもの、自分の女房。

 吉原の夜桜、いつも桜があるわけでなく、三河島から職人がやってきて、二階から見えるように植える。 「桜をば植えて山吹とりたがり」(山吹色の小判)。 お父っつあん、お早うございます。 お早うかい。 昼前のお叱言で。 三四日帰らなかったが、どこへ行っていた。 花見に。 花見なんて、半日もかからないだろう。 酒なくて何の己が桜かな、夜桜です。 吉原のぼんぼりに灯りが入り、花魁と寄り添いながら眺める。 四日目に、ご帰還か、粋な洋箪笥の金が無くなっている。 道楽息子、奉公人になめられる、おん出されることになる。 親が大事か、花魁が大事か? お父っつあん、つまらないことを聞く。 親が大事か。 いいえ、花魁。 罰当たりな。 親は買おうたって買えない、売ろうたって売れない。 お前は世間知らずで、騙されているんだ。 敵娼(あいかた)は違う、そのようなことはありんせん、と、目に涙を浮かべ、色っぽい目で見る。

 私はこれから無尽の会が今日で満回、山谷の料理屋に行く。 お前が、今日出かけたら、勘当します。 お父っつあん、山谷の料理屋でお開きの後、向島の花見の客が吉原の夜桜へ行かないかと言っているのを小耳にはさみ、話の種に行ってみよう、冥途の土産に、と行くことにする。 旦那様、床几にお茶を、年に関係はありません、若い人が買うのは若ラン、年配の方が買うのがオイランで。 倅は、どんなことをして遊んでいるのか、お世話になりましょうか。 ご大家の旦那と見て、一流の芸者、一流の幇間で持て成す。 楽しい、楽しい、私は帰りたくない。 倅と二人で遊んでいたら、身代が傾く。

 一方、若旦那、つまらないね、留守番は。 勘当は洒落にならない。 スーーッと行って、ワッと遊んで、スーーッと帰って来よう。 痔が起こって、切れが出る、親父がうるさくて、今日は長居ができないんだ。 いつもの連中は、二階の客で塞がっています。 六十かっこうの大旦那、品のよろしい方です。 粋な年寄がいるもんだ、ちょっとだけご一緒させていただくことはできませんか。 伺って来ましょう。 いかがでしょう。 それはいけない。 勘定は増えません、むしろ半分になる。 呼んで下さい。

 趣向はないですか? 襖を間にして、旦那のカラスが羽ばたく。 ご対面! で、襖を開ける。 粋なことだ。 次の間に、若旦那、(唄が入って)手踊りとなる。 ワーーッと、ご対面! アッ、倅! お父っつあん! 倅、決して博打はするなよ。