扇辰の「匙かげん」前半 ― 2014/01/07 06:32
袴を穿いた扇辰、お寒い中をお出でのお客様にお願いです、緊張しているな という目で見ないで下さい。 小満んと、小三治の間に挟まって、十分緊張し ていますので。
慶應大学のある三田に、安倍玄永という医者がいて、その倅の玄益も医者だ が、無類の堅物、二十五になるのに女を知らない。 川崎大師にお参りに行き、 品川宿まで戻ったところで、タライをひっくり返したような雨になった。 ず ぶ濡れになって雨宿りに、乙な拵えの、叶屋という料理屋に入った。 こうい う所は初めてだという玄益に、叶屋はまず芸者を呼んで頂きまして、私にまか せてと、品川で五本の指に入るお那美を呼ぶ。 透き通るような白い肌、お那 美が甘酒なぞ飲むと、骨が透けて見えた、これをスケルトンという。 玄益、 いっぺんにお那美が気に入って、医者の本を質屋に入れて叶屋に通いつめ、つ いには勘当ということになる。 もう品川へ行くのは止めようと、八丁堀に家 を借りて医者を開業した。
患者もついて、お大師様にお礼参りに行く。 伴蔵、叶屋に寄って行く、い やちょっと挨拶するだけだ。 おや、安倍の若先生、どうなさったんです、す っかりご無沙汰で。 勘当されて、八丁堀で開業したが、すっかり敷居が高く なった、お那美はどうしている。 先生は夫婦(めおと)になると口約束なさ ったそうですね、初心な女で、三日も五日も飯を食わない、とうとう頭がおか しくなって、今はウチの座敷牢で預かっています。 ぜひ会いたい。 会った ところでどうしようもない、空を見つめているだけだ。 可哀想なことをした、 私に引き取らせてくれ。 持って行っていただける、有難い、でも(と考えを めぐらし)タダって訳にもいかない、品川で五本の指に入るという芸者だ、置 屋の松本屋と三両で話をつけましょう。
叶屋は、松本屋へ行き、医者の玄益がお那美を引き取ると言っているが、食 うもんは食う、着物は汚す、タダって訳にもいかねえ、三両で俺が話をまとめ てやろう、と。 間に入って、六両にした、悪い奴だ。
玄益は一生懸命だし、なにしろ医者のこと、半年で目に光が射し、病は全快 した。 それが叶屋の耳に入る。 いい銭儲けが出来る、善は急げだ。 何が 善か、わからない。 松本屋に確かめ、身請けの時、年季証文(じょうもん) を渡してねえ、それがアテになる、証文が口を利くと、悪い相談がまとまる。
全快祝に参りました。 叶屋さん、よく来てくれた。 実は松本屋が困って いる、また座敷に出てもらいたい、すぐ仕度をして。 お那美は品川で五本の 指に入るという芸者だ、三両ばかりの端金(はしたがね)で、年季証文はいっ たいどうなってんだ。 お那美さんを渡してもらいましょうか。 お那美、早 く仕度をしろ。 そこへ長屋の八兵衛という家主が現れ、先生は世間知らずの ぼんぼんでして、明日、私の所までお出で下さい、うまく話をまとめておきま すから、と。
最近のコメント