喬太郎「宮戸川」〈全〉前半2015/04/12 07:06

 年度末のお忙しい中を。 春、新しい所へ向かっていく感じがいい。 学生、 勤め人はいい、われわれは変わらない。 学校寄席があると、秋かな、と思う 程度。 がんばれよ、今、胸に抱いている夢、大望へ向かって。 夢は、必ず 見ているものだそうで、悪夢を見た時、夢は五臓の疲れという。 心臓、肝臓、 肺臓、腎臓、木久蔵。 一つの組織だけが、疲れるのか。 他意はございませ ん。

 お父っつあん、半七です、只今帰りました。 また碁将棋かい。 開けて下 さい。 今日という今日は、勘当だ。 おっ母さん、お花です。 開けて下さ い。 どこでもいいから、行っておしまい。 同じような人がいるね。 半ち ゃん、どうしたの。 友達の所で碁を打っていて、閉め出し喰っちゃった。 私 は、歌留多取ってたの、閉め出し食べちゃった。 半ちゃん、これからどうす んの。 霊岸島の伯父夫婦の所へ行こうかと、お花ちゃんは。 親戚は肥後の 熊本、伯父さまの所にお世話になれないかしら。 駄目だよ、伯父は親父と違 ってやわらかい、若い娘を連れて行ったりしたら、みんな伯父さんが飲み込ん だってことになる。 いいじゃありませんか、幼馴染なんだから。 ごめんな さい、半ちゃん。 ついてくんな、駈け出すよ。 ほんとに、ごめんなさいね。  早いね、伯父の家、知ってんだよ。

 今晩は、小網町の半七です。 疝気が起きて、立てない、歳は取りたくない ものだ。 婆さん、半七が来た。 婆ア、寝るんだか、死ぬんだか、わからな い。 煮染めたような腰巻から、黒い足が出て、八百屋のゴボウだね。 小網 町の半七が来た。 腰巻で位牌をくるむな。 だって小網町で、半鐘が鳴って るって。 半坊かい。 ずいぶん、ふけたね。 俺だよ。 いやですよ、お爺 さん、寝ぼけて。 何、熊本へ行け? お連れさんがいらっしゃるのか。 ご 無理を申して、すみません。 私がみんな、飲み込んだ、二階へ上がれ、うる さい奴だ、梯子段取っちゃえ。 布団は一組しかないが、抱き合って寝ちまえ。  婆さん、こっちへ来い。 いやですよ、お爺さん、若い者に刺激されて。 あ の半坊が、よく取った。 ネズミじゃない。 若い頃を思い出しますね、二人 で並んでいたら、ようよう御両人なんて声かけられて、あの時、ほんの少しお ちょうず洩らして…、お爺さんと私、未だに二つ違い。

 あいすみません。 お花ちゃん、休んで下さい。 私は寝ません、半ちゃん が寝て。 半七は帯を解き、布団の真ん中に敷いて、神田と日本橋、お花ちゃ んは日本橋に寝て下さい。 なかなか寝られない。 篠突くような雨、町一面 を濡らそうという。 半ちゃん、雨だわ。 遠雷が、だんだんと近づいて来る。  半ちゃん、怖い。 カリッカリ。 稲光がして、カリカリビシーーン。 お花 が半七にしがみつき、半七がお花を抱きしめる。 うなじから、白粉の匂いが して。 その晩、二人が嬉しい仲になる。

 婆さん、梯子段つけてやったのか。 どうして、二人ともモジモジするんだ、 何があったかわかるから。 半七、どうするんだい、所帯を持つのか。 お花 ちゃんが、よければ。

 お花の家、船宿に頂戴できますかと話をすると、簡単に済んだ。 だが、こ っちは違う、兄さん、納得できませんね。 私は野暮ですよ、お袋の中にあっ た時から、粋は兄さんが全部持ってった。 手籠めにしたからって、言ったっ て。 惚れ合ったんだ、勘当か、俺がもらっちゃうぞ。 当時は勘当金がもら えた。 その金で、二人に小さな店を持たせた。

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