志ん輔の「三枚起請」後半2015/06/05 06:33

 ちくしょう、勘弁できない。 清さん、どうするんだ、台所から出刃なんか 持ち出して。 出刃じゃない、大根おろしだ。 どうする。 癪にさわるから、 あいつの鼻の頭、ひっこすってやる。 俺は、貰い方が違うんだ。 去年の夏、 女がね、この人は容子がいい、私は見る目だけは確かなんて言うんで、馴染に なった。 秋、暮まで二十円用立ててくれないか、と言われた。 五円の金も ありゃあしない、日本橋に奉公している妹の所へ行き、お袋が具合が悪いと言 って、着物の風呂敷包みを質屋に持って行った。 六円、あと十円足りない、 ご主人に話して二十円つくってもらった。 あの女が首っ玉に抱きつきながら、 書いてくれた起請文だ、妹が不憫でならねえ。 チ、チ、チン。

 今夜、三人で行こうじゃないか。 ねじ込んでも、笑われるのが関の山だ。  談判に行き、起請を三枚出して、女に恥をかかせてやろう。 四匹の犬が行く けれど、一番前にいる犬は、女犬だろう。 あの男犬三匹も、起請をもらって んのかね。

 いらっしゃい、棟梁、お見限りね。 がまんできないんだ、あの女。 お前 さん、ちゃんと堅いものもらってるんだろ。 堅くない、柔かいんだ、グニャ グニャになっちゃったんだ。 だまされ連中が、やって参りました。

 乙な家だね。 もと出てた女、芸者、ぴか一だった。 俺、喜瀬川いいや、 ここに養子に入る。 で、どうするの。 俺、一人ということにして、あいつ を呼んでくれ。 猪之さんは押入れに、清さんは衝立の陰に。

 まあ、棟梁、ちっとも来ないのねえ、来年三月まで、まだ間があるじゃない か。 煙草でもお吸いよ、煙管貸しておくれ。 掃除をしないのかい、煙管通 すものないかい。 あったよ、これで。 反古っ紙かい、ちったあ考えてくれ るようになったんだね。 何よ、これ、起請じゃないか。 起請……、チラシ かと思ったよ。 女が出来たんだよ、考えたね。 お前はよく涙が出るな、お い、俺のほかに起請をやってる者があるだろう。 冗談言っちゃあいけない、 起請というものは一枚のもんだよ。

 そうかい、じゃあ聞くけど、唐物屋の若旦那の、猪之さんてえのが来るだろ う。 あんなの子供だよ、色の白いぶくぶくした、水瓶に落ちたおまんまっ粒 みたいな奴だよ。 あんな奴に起請なんか、やるわけない。 おいッ、水瓶に 落ちたおまんまっ粒、出て来い。 あら、ちょいと、そこにいたの。

 まだ、あるんだ、経師屋の清さんにも、起請をやったろ。 あぁ、清公、気 障でイヤな奴、背がひょろひょろと高い、日陰の桃の木みたいな奴さ、起請な んか、やるもんか。 おいッ、日陰の桃の木、出て来い。 あっ、いたの、お 前さん、苦み走って、本当に容子がいい。 何、言ってやがんでえ、勘弁でき ねえ。

 三人いるのかい、どうするの、お前さんたち、私をぶつのかい、おぶちよ。  けどね、これ私の体じゃないよ、お金がかかっているんだ、身請けをしてから、 ぶちやがれ。 身請けなんかできるか。 じゃあ、どうして拳固なんか、つく っているんだい。 これぐらいの八つ頭は、一体、いくらぐらいするだろう、 と思ってな。 ざまあみやがれ。 おう、おう、喜瀬川、女郎は客をだますの が商売だがな、だまし方が癪にさわるんだ。 「いやで起請を書く時は、熊野 でカラスが三羽死ぬ」というだろう、罪なことすんない。 ああ、そう、三羽 死ぬの、冗談いっちゃあいけないよ、あたしはね、もういやな起請をどっさり 書いてね、世界中のカラスを、みな殺しにしたいのさ。 カラスを、みな殺し にして、どうするんだい。 朝寝がしたいんだよ。

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