三遊亭萬橘の「洒落小町」後半2025/05/17 07:02

 あいつと別れたいのか。 ちょっと待って下さい、旦那。 いいところだってあるんで。 どこだ? 言えません。 夜の顔をしたな。 浮気、穴っぱいり、させたくない。 怒っても、殴っても、怒鳴っても、すぐ出て行くんです。 在原業平を知っているか? 業平…、甥っ子が業平橋の近くにいる。 場所じゃない。 業平には、井筒姫という女房がいたが、河内に生駒姫という想い人がいた、お妾。 おかみさんは、穴っぱいりを認めてくれていた。 雨風激しい晩、あの子の所へ行ってやったら、どうぞお出かけ下さい、と出してくれた。 業平は疑い、一回りして、家の中を覗いた。 琴の音がした、男じゃなくて。 「風吹けば沖津白波立田山夜半にや君がひとり越ゆらむ」と唄っている。 黒田節じゃなく? 亭主の身を案じてくれていたんだ、業平は河内に行くのをぴたりと止めて、井筒姫と一生涯、添い遂げたというな。 和歌の力だ、小野小町は雨を降らした、柿本人麻呂、天智天皇は…。 柿の種は、好きです。 和歌だ。 歌…、あれですか。 狐も、歌を詠んだ。

 亭主を喜ばせる気持が大事だ、お前は駄洒落がうまいから、駄洒落で喜ばせるんだ。 稽古をしよう、題を出す。 人参。 人参三か月。 鶏肉。 チキンとしなさい。 西瓜。 スイカと15日、5%オフ。 うまいじゃないか、酒肴を用意するんだ。 料理は得意じゃない、お湯かけて三分待つのが、大変で。 化粧もしたらどうだ、鼻毛が口まで届いている。 家に帰って、やってみます。

 あの女、とんでもない女だ、三人いっぺんに、やっつけた。 裸が好きなんだ、越中フンドシで、あぐらをかきやがる。 家へ、帰りたくないな。 垣根越しに、家の中を覗くか。 あれで化粧してるつもりなのか、顔中犬神家の助清みたいに白く塗って、口紅もべっとり、いつも通り裸だ。 新しい国へ、石破茂、イカ墨スパゲッティー、入っておいで。 お帰りなさいませ。 お酒の用意も出来ている。 ビールに、燗をするかい。 おでんは、キンキンに冷えている。 キムチ鍋、あんたお汁粉好きだから、いっぺんにつくったよ。 納豆に、オクラに、モロヘイヤ、糸引くものを入れた。 何、見ているの、十五夜お月さん見て跳ねろ。 こんな家にいたくない。 出かけるのか? 納豆を背中につけて、引っ張るか。 そうだ、足止めの歌があった。 「恋しくばたずね来てみよ和泉なる信田の森のうらみ葛の葉」。 あら、行っちゃったよ。 ちょいと、お前さん。

こーーんちは! 旦那さん、うまく行きませんでした。 足止めの歌も駄目で。 何て、やった? 「恋しくばたずね来てみよ和泉なる信田の森のうらみ葛の葉」。 そりゃあ、駄目だ。 私が教えたのは、「風吹けば沖津白波立田山夜半にや君がひとり越ゆらむ」、お前のは狐の歌だ。 狐? ああ、それでまた穴っぱいりに入って行ったんだ。