橘家圓太郎の「馬の田楽」2025/08/01 07:08

 ちょいとしたことで、気が悪くなる。 浅草演芸ホールからよみうり大手町ホールに来るのに、浅草から日本橋乗り換えの東西線で大手町まで来た。 大手町駅から15分歩いて、不愉快になった。 噺家馬鹿、反省しない。 なんとなくという感じがいい、そんなつもりでいる。 家庭環境から教育者がわかるのだが、80歳くらいの後ろ姿から校長先生、目の粗い背広で、163㎝82kg、新宿三丁目駅で教育者の匂いのする人を見かけた。 その後ろから180㎝の55歳くらい、丈の短いTシャツにGパン、背中に怒りが現れた男が来た。 校長先生が改札機で、赤いランプになった。 男は「急いでるんだよ!」と、言った。 圓太郎は、何という甘ったれだと思った。 どうするかと思ったら、80歳、「もうちょっと早起きしましょ!」と。

 犬は面白い。 家で、縦の序列がある。 子供は、可愛がり過ぎる。 散歩に行き、横断歩道で、お座り!と、起立!が出来る(自慢)。 周りの人は見ているが…。 馬に「し」「どう」の誤りあり、という。 掛け声の「し!し!」で走り、「どう!どう!」で止まる。 楽屋に最近は乗馬クラブに行っているなんてのがいて、聞いたら、今は「し!し!」「どう!どう!」なんて言わない、と。

 三州屋さん、太十だ、味噌樽を届けに来た。 オンジー、いないのか。 判を取るまで下ろせない。 メンコの子供、馬の前へ来たらいかん、馬にかまうな、蹴飛ばされるぞ。 囲炉裏に火がある、オンジー、どこさ行ったか。 待つべえ、陽気がいい。 腰を下ろすと、眠気を催す。 太十どんでねえか、起きろ。 裏の畑で大根の種を蒔いていた、土も種も黒い、途中ではやめられねえ。 蒔き終えた。 三州屋さん、味噌持って来たよ、二樽、判をおくれ。 おかしいな、頼んでない。 頼まれて持ってきたが、この書付、○に三なら、三州屋だが、山向うの三河屋は、□に三、これは縦に棒一本ある、番頭が乱暴に書いたんだ。 三河屋へ、行って来るけ。

 茶、一杯飲んでいきなさい。 また、ゆっくり来なせい。 アラ! アラッ! イスラム教徒にでもなったか? 馬が! 馬が、いない! お前、さっきメンコぶってた子供の一人だな。 馬は、どうした。 竹どんが、悪い。 最初に、馬の腹の下をくぐった。 あっちで、くぐれ、お前は男か、女か、ここまで来いって言うから、死ぬ気でツーーッとくぐった。 次はあべこべにくぐって、行ったり来たりした。 鬼ごっこで、竹どんが馬の腹の下に隠れた。 脚の真ん中にもう一本、伸びてる脚がある。 ブラブラ下がってるのに、竹どんが横っ面を張り飛ばされた。 小便がジョロジョロ出たんで、竹どんが竹竿で真ん中の脚をさわると、消えて無くなった。

 それから、竹どんが馬のシッポの毛を抜いて、トンボつるべえってんで、ピーーッと抜いた。 弟も、欲しいってんで、もう一本ピーーッと抜いた。 お前も一本、兄弟の分もと、八人分、五、六本両手の指に巻いて、ソレッとやった。 馬はカンダチして、ヒヒーン、タターーッと駆け出した。 どっちへ行った? おら、目つぶっていたんで、わかんねえ。

 上だべか、下だべか。 上に、酒を売る婆さんがいる。 味噌二樽つけた、馬が通らなかったか? 今年七十九になる、寅十が茄子を十本くれた、美味かった、おかげで身体は丈夫だ。 耳、貸しな、味噌二樽つけた、馬が通らなかったか? これでも、私は女だよ、おかげで身体は丈夫だ。 こりゃ、駄目だ。

 お百姓! ちょっくら、伺いたい。 味噌樽二丁つけた馬が、通らなかったか? 話を聞け、隣村に東京の芝居が来て、おっかあが行こうと言うけれど、おら、釣りに行く道具を出していたんだ。 味噌樽二丁つけた馬が、通らなかったか? まあ、いいから、話を聞きなせえ、釣りに行く道具を出していたんだ、天気がいい、何が釣れるか楽しみでな。 味噌樽二丁つけた馬が、通らなかったか?  おら、出て来たばかりで、わからねえ。

 ハハハ! 向うから来るのは、寅十でないか。 森の中から、太十どんでござるか(かなり酔っ払っている)。 立て場の婆さんに、おらんとこの馬、味噌つけた馬が通らなかったか聞いたんだが、埒(らち)が明かねえ。 ハハハ! おら、この年になるまで、馬の田楽は、食ったことがねえ。

桂吉坊の「冬の遊び」前半2025/08/02 07:10

 上方落語の珍品担当、「冬の遊び」で夏の噺です。 あらかじめネタ出しをしていると、当日、後悔をすることがある。 大坂の新町、官許の廓が三つ、江戸の吉原、京都の島原と。 吉原は花魁、島原、新町は太夫と呼ぶ、傾城、傾国といわれる高級な遊女がいた。 吉原に花魁道中があるように、新町でも道中をした。 元来春のものだが、時代で、時期がばらばらだった。 大師匠の米朝は、お上をしくじったからだろう、と言っていた。 新町は、前の万博の頃までは、よかったという。 新幹線が出来て、客が大阪で泊まらなくなった。 かつては、贅沢な遊びをした。 廓で散髪屋を呼ぶ、隣の部屋に、浄瑠璃語りを入れ、それをBGMに散髪をする。 旦さん二人で、将棋を差す。 駒の一つ一つに、芸妓舞妓の着物を作って、それを着せて、広い部屋で遊ぶ。 廊下に、田圃をつくって、芸妓舞妓に田植えをさせる。 そんな豪勢な遊びをした(と、羽織を脱ぐ)。

 西区、新町(といっても、土地勘がないでしょうが)、スポンサーは堂島、米相場所があり、日本中の米の値段を決める。 その堂島の直(ジキ)、旦那衆が四、五人、新町にやって来る。 新町では、芸妓舞妓が仮装で歌舞伎や能のキャラクターに着飾って道中、表座敷の格子を外し、客席を設けている(鳴り物が入る)。 旦さん! おう、一八か、後から来いよ。 吉田屋へ。

 よう、お越しで。 暑いことだな。 奥の座敷、松の間へ、下は籐むしろ、すだれを下げ、庭には打ち水、馴染の芸妓が来る。 雀の照り焼きができる暑さで。 栴檀(せんだん)を、呼んでくれるか。 栴檀さん、道中でっせ。 知盛の衣装で。 取り敢えず、栴檀、呼んでくれ。 道中が始まる時分で。 かめへん、呼んでくれ。 できしません。 そうか、帰るさかい。 お富さん、姐さん、旦那さんが、無理を言うて、お帰りになるって。(と、泣く) お仲、わてが連れて来ます。

 お奉行様、役人さんもいらっしゃる道中。 吉田屋のお富が、栴檀を連れてくる、と走る。 道中の行列がやってくる。 こんな別嬪揃い、見たことない。 屋台を引っ張っている。 三味線、鼓、笛は若い連中、世話方の引舟、ベテラン勢が続く。 太夫の行列、傘止、栴檀太夫。 通して、おくれやす! 拳固で、見物にぶつかる。 お富は、行列を止めて、新町の一大事です! 柝が入った。 幇間連中が、行列を止めた。

 世話役たちに、堂島に挨拶に行きましたか? 行ってない、誰も。 すまん。 新町が、潰れる。 栴檀さんを、貸して下さい。 役人たちは、茶屋に放り込んで、芸者が固める。 若い連中が、栴檀太夫を囲んで行く。 直(ジキ)、栴檀さんをお連れいたしました。

桂吉坊の「冬の遊び」後半2025/08/03 07:23

 お富、よう連れて来てくれた。 栴檀、座ったらどうだ、立派なもんだ、知盛、よう似合っている。 衣装は何枚だ? 六枚。 汗一つ、かいてない。 皆、冬の着物に着替えよう、丹前など…。 芸人衆は、冬の着物など、手元にない、どこぞの蔵に預けている。

 一八です、遅うなりました。 向う先の見えぬ芸人やな。 扇子バタバタやって、セミの羽みたいな着物を着て。 しくじったか! お帳場、冬の着物はちょっとお蔵入りなんで、袷(あわせ)に長襦袢三枚、着物二枚、綿入れ、帯をぐるぐる巻きにして、ビロードの羽織。 暑い!

 えらい、寒いことでっすな。 なんで、唐紙入れないんです、炭を熾して、火鉢を。 スズキの洗いに、冷奴は駄目。 鍋に、茶碗蒸を。 一八は、お帳場さん、動かれへん。 運び込め。 化け物やな。 着物の中から、顔出してる。 寒さの厳しい日で、新町中、氷柱が下がっております。 唐紙入れて、真夏の密室、宣徳銅器の火鉢に炭を熾し、鍋。 取り敢えず、茶碗蒸が出来てます。 冷え性なんで、懐炉を三つずつ。 一八に、してやられたな。 一つ、踊れ! 冬のもんを、弾いて下さい。 (鳴り物が入る)「御所のお庭」、手首しか動かれへん。 扇子を持たせろ。 手が悴(かじか)んでます。 隙間から、懐炉を突っ込め。

 一八、着物を脱いで、飛び出し、井戸の水をザブーーッ、ザブーーッ、とかぶる。 一八、何をやってるんだ? 寒行の真似をしております。

春風亭一朝の「日和違い」2025/08/04 07:05

 言うまいと思えど、の暑さで。 林家正蔵(彦六)の怪談噺、よくしくじった、正雀が入る前のこと、師匠はいいんだが、弟子は芝居心がない。 火の玉、幽霊火、釣り竿の先に樟脳玉をつけて、前座がゆらゆらと出す。 木久蔵、今の木久翁、見ながらやればいいのに、前後左右に動かすから、師匠の頬っぺたにくっついて、(正蔵の声色で)「バカヤロウ! 熱いじゃないか!」、幽霊が啖呵を切ったりする。

 「日和違い」、何しろ研究会でやる話じゃない。 世の中は澄むと濁るで大違い、刷毛に毛があり、ハゲに毛が無し。 だいこんと付くべき文字に付けもせず、いらぬ牛蒡をごんぼォという。 「ダイコ、ダイコ!」「ゴンボォ、ゴンボォ!」と売る。 「ゴボ、ゴボ!」では、長靴でぬかるみを行き、徳利が水瓶に沈んだようだ。 商売は、道によって賢し、という。

 足止めの法。 一人の男が、往来で空の一点を見つめている、ステッキでその一点を指し、「おい諸君、あれは空だ、天。下にあるのは、地。公園にあるのはベンチ。お昼に食べるのはランチ。食べて出すのはウンチだ。」 やおら、自分の商売を始める。 易者、お客を亡者(迷って来るから)と呼ぶ。 家に庭があるか、井戸はあるか? 庭はあるが、井戸はない。 なくて結構、あると一命に関わる。 庭に木があるか。 柳の木がある。 その木の位置がよくない、右にあるだろう。 左にあるけれど。 どちらから見て、左だ? 家から見て。 わしは、庭から家を見ている。

 どうだろうね、天気、雨降らねえかな、これから日本橋まで使いに行かなきゃならない。 俺は雨男なんだが、番傘しかない。 漁師なら、天気が分る。 どこに漁師がいる。 海か川のそばだ。 品川。 二里ある。 日本橋まで、一里だよ。 占い師が、町内のお長屋にいる、聞けばいい。 これは、これは、お長屋の衆、天気、森羅万象、神社仏閣、何でも分かる。 今日の天気はどうでしょう? 「今日は雨が降る天気じゃない」 見料は、いくらで? いらない。

 それで出かけると、向こうが黒くなってきて、雨が降り出した。 米屋の軒先で雨宿りをする。 本降りになってきた、ドブ板が流れて来た。 米屋が、あっちへ行って下さい、と。 傘貸してくれるかい。 貸せない、濡れすぎているから、米俵を着せてあげる。 サンダラボッチを、頭に。 手が出ないよ。 俵を切ってあげる、お代を。 どこで損するか、わからない。 横丁のみっちゃんには見せられない。

 占い師のところへ。 やい、この野郎! また、妙な格好で。 雨具をお持ちにならなかったんで? 「今日は雨が降る天気じゃない」って、言ったじゃないか。 私は「今日は雨が降る、天気じゃない」と申しました、傘持って行かなきゃあ、駄目だ。 一遍、切るのか、どうも、すみません。 今夜は、早寝だ。

 翌朝。 また、出掛ける。 紙芝居屋、アメはあるかね? 煎餅ならある。 桶屋、ふろうかい? こんな浅い風呂があるもんか、これは盥(たらい)だ。 学生さん、ふるかい? 失礼な、ちゃんとサルマタ穿いてます。 魚屋の勝っつあん、きょうはふりか? ブリはない、サワラならある。 サワラ、切ろうか? イヤーーッ、俵を着るのは、コリゴリだよ。