五街道雲助の「淀五郎」前半 ― 2025/05/19 07:02
本日のお掃除役でございます。 江戸時代、日千両と、魚河岸、芝居、吉原を言った。 芝居は櫓三座といって、市村座、守田座、河原崎座があった。 守田座は市川団蔵、昨年亡くなったのが九代目で、八代目は播磨灘に入水して「飛び込み団蔵」と言われた、フグに中った「フグの三津五郎」みたいに。 江戸の四代目市川団蔵、三河屋、俳号は市紅、住んだところから目黒団蔵とか、人間が皮肉なので皮肉団蔵とか言われた。
頭取、親方、大変です、判官をやる今戸の役者が倒れました。 『仮名手本忠臣蔵』四段目の塩冶判官だ。 狂言を変えるかしないと。 それはいけねえ、香盤を持って来い。 ある、ある、これなら、出来ねえことはねえ。 沢村淀五郎、相中(あいちゅう)の役者で、芝居茶屋のセガレ。 役者は、三階の相中から、下立役(稲荷町)、中通り、相中、相中上分、名題下、名題と出世する。 相中の淀五郎を、いきなり名題にするというのだ。
淀五郎、飛上がって喜んで、撒きものをこしらえ、方々へ挨拶した。 初日、四段目の塩冶判官切腹の場だ。 弁当その他を客席に運びこめない「出物止め」、文楽では「通さん場」といい、はばかりへ行っても入れない、気の入った幕だ。
力弥は、三方を持って出て来て、判官の前に置き、いやいやをするように首を振ると、下手を見る。 太棹が二の糸で、トーーン、トーーンと弾くばかり。 「力弥、力弥、由良之助は?」「いまだ参上仕りませぬ」。 「力弥、力弥、力弥…」、「いまだ参上仕りませぬ」。 大星由良之助が花道に、只今到着。 上使の石堂右馬之丞が、「近こう、近こう!」 何だい、こりゃあ、ひどい判官だな、駄目だなあ、芸の勘所があるとやらせてみりゃあ、こんな判官だ。 あーー、嫌だ、嫌だ、と、花道の七三に止まったきりで、そばに寄ってきてくれずに、愚痴をこぼしている。 「由良之助カーーーァ!」、ブツブツ、「待ちかねたぁー!」「委細承知致しまして」。
舞台を降りた淀五郎、団蔵の所へ。 いいから、こっちへ入んな。 由良之助が側へ行かない型があるんでしょうか。 そんな型があるか、俺は知らねえな。 お前が、行かしてくれねえからだ。 石堂右馬之丞は、心ある人だ。 五万三千石の大名が腹を切るんだ、淀五郎が腹を切ってちゃあ、そばに行けない。 どうすりゃあ? 本当に腹を切るんだ。 本当に腹を切つたら、死んでしまいます。 死んだほうがいい、死んじまいな。 ありがとうございます。
立川龍志の「義眼」 ― 2025/05/18 07:33
龍志は、落語研究会でする噺ではない、と始めた。 難しい商売に医者がある、人命にかかわる。 落語は、間違えると、喜ばれる。 先代の小さんが言葉に詰まり、小さな声で「忘れた」と言って、受けた。 後で同じ所で詰まり、「本当に、忘れた」と。 間違いなんて、こんなもんだろっていう、感じがある。 医者は、大学も2年多い6年間学んで、国家試験を受け、インターンをやって、患者を診られるようになり、人を殺して、初めて一人前になる。
昔は、でも医者というのがいた。 あいつも、医者にかからなかったら、助かったのに。 先生、竹に花が咲いて、枯れたんですが、どうしたらいいでしょう。 それは、植木屋に聞け。 先生は、藪医者だと聞いたもんで。 裏の医者、急いで来てくれって言われ、薬籠持って、飛び出して行ったんだが、その途中で、ウチの倅が足で蹴飛ばされた。 よかった、よかった、あの医者の手にかかっていたら、大変だった。 何でも、手遅れという医者がいる。 先生、この野郎、階段から落ちて。 手遅れだな、落ちる前に連れて来なければ駄目だ。
ある男、大事なのは眼、だってんで、ずっと片目で生きてきた。 年を取って、新しい眼を開けたら、知ってる人が、誰もいなかった。 入れ目、義眼の具合はどうかな、ガタガタしたら来て下さい、セメントを入れますから。 鏡を貸して下さい、どちらが本物だか、わからない。 お休みになる時は、湯呑に水を入れてつけておくと、朝、入れる時に、ひんやりして気持がいいですから。 吉原に馴染の女がいるんですが、行ってもいいでしょうか。 毎晩でも、いい。 たまには、顔を出して下さい。
馴染の女、前よりいい男になった気がする、と。 ばかな持て方。 隣には、振られた男。 月蝕女郎で、真っ暗闇。 隣は、宵の口から、ペチャクチャ喋っている。 そんなところを、さわっちゃあ、くすぐったいわよ。 静かになった。 紙をガサガサ。 済んだんだね。
草履が、バタン、バタン、バタン、バタン! 来るかと思ったら、行っちゃった。 喉が渇いたな。 銭ばっかり取って、水もない。 下まで水飲みに行くか。 この部屋だな、あれがいい男か、鼻から提灯出して寝てやがら。 湯呑に水がいっぱい入ってる。 下まで行くの面倒くさいな。 ウッウッ、うまいね。 酔い覚めの水、千両と値が決まり。 なんか、生臭いな。 ウッウッ……、アッ、驚いた、この水、芯があるよ。
この男、翌朝、通じがつかない。 十日経っても出ないので、奥さんと医者へ行く。 ドブが詰まると同じで、食べたものが肛門に詰まっている。 助かるでしょうか。 大丈夫、ドイツから輸入のアヌス眼鏡で、尻の中を覗く。 窓を閉めて。 苦しいです。 起き上がって、下帯を外して。 きまりが悪い。 きまり悪がる顔じゃない。 四つん這いになって、私に尻を向けて。 この毛むくじゃら、どうしたんです、山だったら、鉄砲で撃たれる。 尻を上げて。 これよりアヌス眼鏡を挿入します。 ダーーーッ! 半分ほど入った、屁をしないように。 入りました。 少々、お待ちを。
先生、いきなり表に飛び出した。 表で待っていた奥さんに、驚きました! 私が御主人の尻の中を覗いたら、向うからも、誰かが見ておりましたから。
三遊亭萬橘の「洒落小町」後半 ― 2025/05/17 07:02
あいつと別れたいのか。 ちょっと待って下さい、旦那。 いいところだってあるんで。 どこだ? 言えません。 夜の顔をしたな。 浮気、穴っぱいり、させたくない。 怒っても、殴っても、怒鳴っても、すぐ出て行くんです。 在原業平を知っているか? 業平…、甥っ子が業平橋の近くにいる。 場所じゃない。 業平には、井筒姫という女房がいたが、河内に生駒姫という想い人がいた、お妾。 おかみさんは、穴っぱいりを認めてくれていた。 雨風激しい晩、あの子の所へ行ってやったら、どうぞお出かけ下さい、と出してくれた。 業平は疑い、一回りして、家の中を覗いた。 琴の音がした、男じゃなくて。 「風吹けば沖津白波立田山夜半にや君がひとり越ゆらむ」と唄っている。 黒田節じゃなく? 亭主の身を案じてくれていたんだ、業平は河内に行くのをぴたりと止めて、井筒姫と一生涯、添い遂げたというな。 和歌の力だ、小野小町は雨を降らした、柿本人麻呂、天智天皇は…。 柿の種は、好きです。 和歌だ。 歌…、あれですか。 狐も、歌を詠んだ。
亭主を喜ばせる気持が大事だ、お前は駄洒落がうまいから、駄洒落で喜ばせるんだ。 稽古をしよう、題を出す。 人参。 人参三か月。 鶏肉。 チキンとしなさい。 西瓜。 スイカと15日、5%オフ。 うまいじゃないか、酒肴を用意するんだ。 料理は得意じゃない、お湯かけて三分待つのが、大変で。 化粧もしたらどうだ、鼻毛が口まで届いている。 家に帰って、やってみます。
あの女、とんでもない女だ、三人いっぺんに、やっつけた。 裸が好きなんだ、越中フンドシで、あぐらをかきやがる。 家へ、帰りたくないな。 垣根越しに、家の中を覗くか。 あれで化粧してるつもりなのか、顔中犬神家の助清みたいに白く塗って、口紅もべっとり、いつも通り裸だ。 新しい国へ、石破茂、イカ墨スパゲッティー、入っておいで。 お帰りなさいませ。 お酒の用意も出来ている。 ビールに、燗をするかい。 おでんは、キンキンに冷えている。 キムチ鍋、あんたお汁粉好きだから、いっぺんにつくったよ。 納豆に、オクラに、モロヘイヤ、糸引くものを入れた。 何、見ているの、十五夜お月さん見て跳ねろ。 こんな家にいたくない。 出かけるのか? 納豆を背中につけて、引っ張るか。 そうだ、足止めの歌があった。 「恋しくばたずね来てみよ和泉なる信田の森のうらみ葛の葉」。 あら、行っちゃったよ。 ちょいと、お前さん。
こーーんちは! 旦那さん、うまく行きませんでした。 足止めの歌も駄目で。 何て、やった? 「恋しくばたずね来てみよ和泉なる信田の森のうらみ葛の葉」。 そりゃあ、駄目だ。 私が教えたのは、「風吹けば沖津白波立田山夜半にや君がひとり越ゆらむ」、お前のは狐の歌だ。 狐? ああ、それでまた穴っぱいりに入って行ったんだ。
三遊亭萬橘の「洒落小町」前半 ― 2025/05/16 07:00
落語を聞いて楽しむのはいい。 映画の『コンクラーベ』を観た。 観た人いますか?(メガネをはずして、客席を眺める) 映画館へ行くと、予告編をやる。 『プロフェッショナル』の予告編の後に『アマチュア』の予告編をやる、妻を殺された男が……、どっちにしろ殺されるのかよ。
動物園へ行くのも、楽しみだ。 札幌の円山動物園、カバがアクリル板の目の前まで来る。 3、4年生のアオイちゃん、個人情報はどうでもいいんだけれど、その女の子に母親が、「仲間だと思って来たんじゃないの」と言った。 アオイちゃんは即、「おかあさんが、でしょ」。 アナコンダって蛇、でかい。 (手で、一抱えもある大きさをつくって)とぐろを巻いている。 写真を撮った。 最近のアイフォンは、写真を勝手にグループ分けする。 アナコンダ、うちのかみさんと、同じグループにグループ分けされていた。 「怖い」というグループ。 娘が、かみさんに、「お母さん、一番だってよ」と、仲間の友達が言っている、と。 そのあと、「お母さん、一番年上だって」と言って、怒られていた。 家事を手伝うようにしている、洗い物なんか。 かみさんが出かける時、洗い物をしていて、帰って来た時も、洗っていた。 「まだ洗ってんの」と言われたので、「心も一緒に洗っているからね」と返した。 「時間がかかるだろうね」。 女の人は、子供が出来ると、強くなる。 かみさんがPTAの配布の資料を見ているのを、向う側に座って見ていた。 文字と写真の資料で、その写真を携帯の画面をこするように、こすっているのを、見てしまった。 「どっかで、しゃべるんじゃないよ!」 女の人は強くなる。
こーーんちは! 開けて入りな、足でもいい。 お松さんかい。 その顔どうした、目に青タン。 ウチの人にやられたかなんて、知らないでしょ。 喧嘩したのか、話してごらん。 話すの、やめとこう。 諦めるの、早すぎる、話してごらん。 浮気なんで。 留さんが? 仕事の用で出掛けるってんで、臭えなと思って、付けて行った。 電車で五駅ほど乗って、10分ほど歩いて、家の中に入った。 寒くってね、わたし裸で。 エッ! 裸で、電車で五駅ほど乗って、10分ほど歩いたのかい。 わたし、水浴びしてたんで。
家の中から、三味線の調子を合わせているのが、聞こえた。 「晴れて雲間に……」と亭主の声。 それで、すかさず入って行った。 お婆アさんが出て来て、座り込んだ。 ウチの人をつまみだして、と言ったが、ラチが明かないので、突き飛ばす。 ウチの人が現れたので、肩をドンとついて、足を掛けた。 傘で突いた。 お婆アさんの後ろから、向うの女がお椀を持って出て来た。 カーーッとなって、突き飛ばすと、崩れ落ちた、肥ったブスだった。 家まで、走って帰って来た。 角を曲がったところで、電信柱にぶつかって、目に青タンができた。
松柳亭鶴枝の「ろくろ首」 ― 2025/05/15 07:13
柳亭市童改メ松柳亭鶴枝、おでこが広い、落語研究会は二た月にいっぺん太鼓を叩いていた、3月21日真打昇進、松柳亭鶴枝は四代目、先代は尾藤イサオさんのお父さんで、78年ぶりの復活、ということは、それほどの名前ではない、目出度い漢字が並んでいるので、名前だけでも覚えてほしい。
松公は、モノに動じない、置かれている状況が分かってない。 松公、何をガタガタやってるんだ。 伯父さんちでも、ちゃんと挨拶をしろ、こんにちは、と。 こんにちは。 今日は何だ、何か用か? 兄貴がね、33になる。 3年前にかみさんをもらって、赤ん坊が生まれた。 赤ん坊が大きくなってきて可愛い、三人でちゃぶ台で飯を食っていて、おかみさんが兄貴のことを「ちょいと、お前さん」「あなたやー」なんて言う、やんなっちゃうよ。 それが、どうした? アタイは、お袋と二人だ、お袋は飯を食うと総入歯をはずして茶碗に入れて洗濯する、その水を飲むんだ。 口を開けると洞窟のようになる、その口で「あなたやー」なんて言わない。 アタイも25になる。 まだアタイなんて言ってるのか。 ボク。 ボクニンジン。 私も25になるから、兄貴に負けない気になって……。 何だ、はっきり言え。 はっきり、言うぞ、「ウーーッ、おかみさんが、もらいたい! おかみさんが、もらいたい! おかみさんが、もらいたい!」 わかった、わかった。 婆さん、そこでひっくりかえつて、笑ってるんじゃないよ。 兄貴は、手に職がある。 どうやって、かみさんを食わせるんだ? 箸と茶碗で。 男、一人前でなけりゃあ、駄目だ。
お前、岩田のご隠居のところで、天丼を五杯食ったそうだな。 掃除の手伝いに行ったら、もう終わっていて、みんなで天丼を食っていた。 アタイも一つ食べて、まだ残ってるのを、食べられるかと言われたので、ペロッと五つ食べて、お小遣いももらった。 その小遣いでモリ三枚食って、家に帰ったらお袋がお茶漬してたんで、シャケでお茶漬を食った。 すると、お腹が弾けた。 フンドシの紐が切れたんだ。 お前、寝坊なんだってな、人間まどろむは愚なり、という。 それで、イギリスには、ネルソンて人がいるんだね。
あなた、松っちゃんを、お屋敷にどうでしょう。 伯父さんの知り合いに、大きなお屋敷のお嬢さんがいて、乳母(おんば)さんと女中が二人、五人暮らし、大変な財産がある。 お前、そこへ行くか。 ただ理由(わけ)がある。 お嬢さんに、お病(やまい)がある。 夜、寝てからだ。 寝小便か、寝小便ならアタイもする。 25になってもか。 お屋敷の一番奥の間で、丑三つ時、2時頃、首が伸びて、金屏風を越えて、行灯の油をなめる。 面白い、ドクドックビだな。 そういうのは好かないけれど、夜中だけだろ、アタイは寝たら起きないからいいや、「伸びろ、伸びろ、天まで伸びろ」。
連れて行って、来よう。 乳母さんが丁寧な人なんだ、今日はお天気様で結構ですというような人だから、「さようさよう」と言え。 亡くなられたご両親様もお喜びになるでしょう、と言ったら、「ごもっともごもっとも」と。 私も寄る年波でとか言ったら、どういたしましてという意味で、「なかなか」と言うんだ。 稽古をして、行こう。 毬に紐をつけ松公の下帯に結んで、信号のようなものだ、一回で「さようさよう」、二回は「ごもっともごもっとも」、三回は「なかなか」と、伯父さんが引っ張って合図することにして、出かける。
先方へ行き、乳母さんと「なかなか」「さようさよう」と挨拶、「あとは、なかなか」と言う。 お庭をお嬢さんがお通りになるのを待つ、広い庭だ、鬼ごっこにもってこいだ。 猫が来た、柔らかくて、旨そうな猫だ。 この猫も、首が伸びるんか。 膝から、猫を下ろせ。 綺麗な人だなあ、歩いてるよ。 兄貴のおかみさんより、ずっと綺麗だ、あの人が「あなたやー」なんて言うのかな。 「さようさよう」「ごもっともごもっとも」「なかなか」、四回は何ていうんだっけ。 毬の紐に、猫がじゃれていた。
吉日を選んで、ご婚礼ということになる。 寝床に入った松公、夜中に目が覚めた。 時計が、キーーン、キーーンと鳴った。 二つだ。 「ごもっともごもっとも」だ。 お嫁さんは綺麗な人だなあ、でも寝相が悪い。 頭をずらすと、アーーーッ、首がァ!
トントン、トントン、トントン! 伯父さん、開けてくれぇ! アーーーッ、伸びた、伸びた、伸びた! 夜中に目が覚めたら、首が伸びて、金屏風を越えて、行灯の油をペロペロなめた。 あんなものは駄目だ、お袋の所へ戻る。 お袋さんは、明日はどんないい知らせがあるかと、首を長くして待っているぞ。 あーーあ、家へも帰えれねえ。
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