蘇峰の挙げた福沢文章の特色 ― 2010/01/09 07:04
蘇峰の挙げた福沢文章の特色<小人閑居日記 2003.6.26.>の再録
『文字之教』がどんなものか、『第一文字之教』から例を示す。
第七教
酒 茶 飯 砂糖
買フ 喰フ 良キ 悪キ
酒ヲ飲ム○茶ヲ飲ム○飯ヲ喰フ○子供ハ砂糖ヲ好ム
○良キ子供ハ書物ヲ買テ読ミ悪キ男ハ酒ヲ買テ飲ム
第十五教
角 尾 毛 髪
髭 魚 蛇 坊主
牛ニ角アリ○犬ニ尾アリ○魚ニ毛ナシ○蛇ニ足ナシ○女ニ髭ナシ ○女ニモ男ニモ髪アレドモ坊主ニハ髪ナシ
徳富蘇峰は、明治23年4月『国民之友』80号に、前月(つまり出版から 17年を経て)この『文字之教』を読み、福沢について、世間が認める新日本 の文明開化の経世家としてではない一面、つまり文学者としての福沢の役割、 日本文学が福沢に負うところの多いことを説明するのに、この本が「大なる案 内者」となる、と書いた。 福沢が、すでに明治6年の時点で、平易質実、だ れでも読むことができ、だれでも理解できる「平民的文学」に注意したことを 知るのだ、と。
蘇峰は、そうした「平民的文学」の先駆者としての福沢の文章の特色として 七つを挙げる。 1.その言葉の使い方に警句(「警策」エピグラム)があって、 一種の気迫がある。 2.身の回りの卑近な例を引くので(「直截」)、誰でも理 解しやすい。 3.他人が考えもしない発想(「非常の事を通常に云う」)。 4. 比較が巧みで難しい理屈が納得しやすい(「不釣合」に突飛な対比)。 5.用 語の意味をつまびらかにして、分かりやすい(「死中に活」)。 6.諧謔、頓智、 諷刺、嘲笑、中でも最も多いのは嘲笑。 7.「嘲笑的な特色と相伴ふて離れざ るものは、懐疑的香味是なり。」
この七つのうち、5までは、人がもし子細に学習すれば、その一片を学ぶこ とができるだろうが、6.7.は福沢に天性のもので、実に旧日本破壊、新日 本建設に際して、人々を目覚めさせるのに一大利器になったという。
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