春風亭柳橋の「干物箱」後半 ― 2024/04/08 07:01
お父っつあん、いい湯でしたよ。 倅か、戸締りして寝ちまいな。 第一関門突破だ、いい部屋だな。 若旦那、今頃、俥飛ばしてるよ、アララー、アララー、アラヨー、アラヨー! 何だ、たまに早く帰ってきたと思ったら、騒いでやがる、銀之助、うるさいぞ! まだ、起きてるんか。 多分、寝言で。 起きてたら、ちょうどよかった、頼んどいた無尽には行ってくれたんだろうな。 行ってきました。 無尽、どこに落ちた? ん、ん、神社の杉の木。 エッ。 岩田のご隠居は、おせりになったか、いくらで? ウン千円。 どこか、やぶけてるんか。 三千円。 千円の無尽を、三千円でせるか。
お父っつあん、お休みなさい。 お向うから干物を頂戴したのは、お前か、何の干物だ? 魚の干物です。 エッ、大きいのがあったようだが何だった? 大きいのは、クジラです。 どこにしまった? 箱の中にしまっておきました。 何の箱だ? 下駄箱。 下駄箱にしまうか? 干物箱にしまっておきました。 干物箱? ネズミが入るといけない、お父っつあんの枕元まで持って来てくれ。 急に、おなかが痛くなりました。 薬を持ってってやる。 治りました、お休みなさい。 早いとこ、寝ちまえ。 ああ、怖かった、肝っ玉が、上がったり下がったりしたよ。
向うで若旦那、花魁来たよ、か何かやってんだろな。 どこかに、いい人ができたんじゃないの、ツネツネしちゃうから。 痛い、痛い! また、痛いのか? お休みなさい。
何だ、こんなところに手紙があるよ。 若旦那様、おんもとへ、ご存知より、か。 いい手だ。 一筆示し参らせ候、先日若旦那様お越しの折、病いたちどころに全快したような心持にあいなり候。 橘さんのお相方、本屋の善公は、もとより嫌な奴なれど、愛想も小想も尽き果てたのは、蒲団の中に越中ふんどしを置き忘れ、臭気甚だしく、消毒薬やらDDTを振りまいた、チーチーパーパー、カズノコ野郎。 笑わせるない。 何だ、銀之助、うるさいぞ! うるさいのは、こっちだ。
お前さん、本屋の善さんじゃないか。 お父っつあん。 ウチの馬鹿野郎に頼まれたな。 お宅の馬鹿野郎に頼まれた。 何だ、お前まで、馬鹿野郎と言うことはない。 善さん、善さん! 忘れものだよ、洋ダンスの抽斗の紙入れを、放ってくれ。 こら、馬鹿野郎! 帰ってきやがったな。 えっ、善公は器用だ、親父そっくりだ。
最近のコメント