春風亭喜(七が三つ)いちの「井戸替え」 ― 2025/03/05 07:08
2月28日は、第681回の落語研究会。 パソコンで、七が三つの、喜が出ない。 紫の羽織、濃茶の着物。 士農工商の世、士のトップ、殿様は跡取りを残すことが大事だったので、お妾さんを何人も許される。 駕籠に乗った殿様が、きれいな女の子を見つけて、「あの娘がいい」というと、家来は「ハハァー」と、歌舞伎町のスカウトマンのように動き回って、苦労する。
「そこの男」と、井戸端に、フンドシ一つでいるのに、声を掛ける。 「何です、おじさん」、何をしているかって、豆腐屋の倅がいたずら者で、釣瓶の縄を落とした。 今月の月番なので、取ろうとしている。 だけど、井戸の中はツルツル滑る。 豆腐屋の倅は、長屋の厠の金隠しの上に、ブリの頭を載せておいた。 厠に入った糊屋の婆さん、おきんさんが、それを見て驚いて、ひっくり返って、肥溜にドボン。 上がってきた婆さん、お久し振りと声をかけ、あら見てたのネーと。
お前は、話が長いな。 何の用です、お武家様が…。 家守(やもり)はどこだ? 昨日は長屋の壁を這っていたけれど。 家守は、家主、大家のことだ。 バテレンの言葉で? お武家様は、バテレンですか。 大家なら、角の荒物屋で。 物を安く売るように言って下さい。 大家に、何か粗相があったら、そのお腰のもので、天誅を!
井戸の所で釣瓶の縄を取ろうとしている男に聞いたが、その方が家守であるか。 豆腐屋の倅がいたずら者で、べらべら、べらべら……。 糊屋の婆さん、おきんさんの一件は、承知しておる。 当家の殿様が最前、そこを駕籠でご通行になって、十七、八の見目好き娘をご覧になった。 お鶴でございますか。 三年前に親父を亡くして、母の面倒を見ておりますが、何か、粗相がございましたか…、馬鹿な娘でして、ほんの十二で。 それがしは、丸之内の赤井御門守の家臣で、赤熊団十郎と申す。 感心な娘、利発で、今年十八になります。 最前、十二と申したではないか。 殿様のお目にとまって、屋敷にご奉公となれば、支度金も希望通り、殿様のお手がついてお世継ぎでも産むことになれば、大変な出世をすることになる、話をしてくれぬか。
お鶴のおっ母さん、こっちに入りな。 兄が一人、博打ばかりしているヤクザな倅がいる。 私は歯が悪いので、お鶴が食べるものを細かく刻んでくれる。 お鶴を、お屋敷にご奉公につかわせられないか。 有難いことで。 三年前に死んだ父親の俗名治平、戒名覚久安妙居士も、熊本の清正公様の御蔭と喜んでおりましょう。 喜んで承知いたします。 兄にも、承知してもらわねばならない。 話を、お前からしてくれ。 八公を、呼んで来な。 急げ! 井戸の直しに、今月の月番なので、行っている。
大事な話がある。 さっきの、バテレンのお武家様で。 兄というのは、そちか。 ご縁があって、お鶴がお屋敷にご奉公に上がることになる。 これから長い話になる、発端というお噺で……。
ご存知「八五郎出世」「妾馬(めかうま)」の発端である。 余りやらないので、落語研究会でも、聴いたことがなかった。 なぜ「八五郎出世」を「妾馬」というのか。 だいたい八五郎が殿様にご馳走になって「珍歌があるか」などと言われ、「殿公!」などと呼びかけるところで終わるけれど、前段に「井戸替え」があるように、後段があるのだった。 宇井無愁『笑辞典 落語の根多』(角川文庫・昭和51年)によると、こういう噺だ。 士分に取り立てられた八五郎が、乗りつけぬ馬に乗って城下を行くと、馬がバカにして勝手に走り出す。 八五郎蒼くなって鞍にしがみついていたら、通りがかりの家中の者が「八五郎殿、いずれへ参られる」「どこへ行くか、馬にお聞きくだされ」。
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