柳家喬太郎の「お若伊之助」後半 ― 2025/09/10 07:08
伊之! 鳶頭、お早うございます。 何の真似をしているんだ、穴があったら入りたいよ。 そんなこと、芸人の風上にも置けません、大枚の手切れ金を頂いていて。 何で、逢いに行きやがるんだい。 逢いに行ける訳がない。 伯父さんが、昨夜、様子を見ていたって言うんだ。 どういうこったい。 鳶頭、昨夜、一中節の稽古をした後、あなたのお供をして、吉原へ行った。 山口巴屋に、朝まで一緒にいたじゃあありませんか。 そうか、忍んで行ける訳がないな。 ちょっと、行って来る。
まことか。 鳶頭は、大層飲んだか、飲んで寝てしまう癖はないのか。 引けが12時、根岸と吉原は、目と鼻の先だ。 お前は、寝転(こ)かしを食ったんだ。 先生、行って来ます。
伊之、根岸と吉原は、目と鼻の先だ。 お嬢様は、根岸ですか。 何でわかった? 今、あなたが、言った。 あなたは一中節を思う存分語るとおっしゃって、商売人の目の前で、まわりの連中は舟を漕いでいましたが、私は聞いていました、あなたの一中節を……、根岸に行ける訳がない。
再び、根岸へ。 冗談じゃねえ、あまり寝てないんだ。 先生! という訳で。 お前のあの一中節を、朝まで聞いたのか、伊之が気の毒だ。 左様か、あい分かった。 鳶頭、起きなさい! 宵になったら、また来てくれ。 一緒に確かめてもらいたい、目が四つの方が確かだろう。
鳶頭、起きてくれ、今宵も伊之が忍んで来ている様子だ。 お前も一緒に確かめてもらいたい。 母屋から離れへ、そーーっと、お若の部屋の唐紙をほんの少しだけ開ける。 伊之が、来ている。 先生、仰る通りだ、伊之公でござんす、間違いございません。 今夜はそうだ、あい分かった。 高根新斎は六連発の短筒、ピストルを手にして、参るぞ。 バン! 弾は伊之助の胸元を貫いて、お若は気を失う。 伊之、面を見せろ、先生、伊之助じゃござんせん。 狸! 年経る狸でございます。 夜毎、たぶらかしにきていたのだ。 一件落着でございますね。 さて、どうかな。 先生! 身共の見立てたところ、お若は懐妊しておる。
十月十日が過ぎて、子供が生まれた。 男と女の双子、タネは狸だ。 お若が、愛しいのはわかるが、このままではいけない。 よい里親を、二組見つけて、育ててもらうことにした。 しかし、運命の糸は、これから狂って参ります。
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