可愛らしい黒衣(くろこ)がいた ― 2010/09/20 06:57
「秀山祭九月大歌舞伎」夜の部で、頂いたチケットは一列の35番と36番の 招待券、一番前の右端だった。 まる見えだから、清姫になって地唄「鐘ヶ崎 (かねがみさき)」を舞った中村芝翫などは、正直もう少し「いい女」の女形を 出してもらいたいものだ、と思った。 「もしほ」だった先代の中村勘三郎が 襲名した頃、しきりに「大根」「大根」と言っていた口の悪い祖母なら、何と言 っただろうか。 82歳の人間国宝と聞けば、恐れ入るほかないのだが…。 「鐘 ヶ崎」の、道成寺を望む桜と松の背景(後藤芳世・美術)は、簡素で清々しく、 美しかった。 その対比が際立つ。
「鐘ヶ崎」に続いて、中村富十郎が「うかれ坊主」を軽妙に踊った。 願人 坊主は、落語の「らくだ」や「藁人形」にも登場する。 本来は代願人で、水 垢離の代役を引き受けたり、遠くの社寺に、本人にかわって願を掛けたり、ほ どいたりしに行く代理業。 のちには社寺のお札やお守りを売ったり、庚申の 代待ちや、ばかばかしい芸をしたりして、銭を乞う乞食坊主になった。 正面、 桶を積んだ大きな天水桶があり、踊りの中に水垢離で水をかぶる振りがある。 富十郎の後ろに黒衣(くろこ)がいて、手桶や、手に持つ鳴り物(銭錫杖)、手 桶の底の「悪」と書いたお面を渡したりする。
たまたま第一列の右端にいたから見えたのだが、もう一人、下手の袖の奥に、 黒衣姿の小さな子供が舞台の方を向いて、ちょこん座っていた。 途中で、何 かの役目をするのだろうか、と考えた。 最初は男の子だと思っていたら、だ んだん女の子だということが分かって来た。 ニコニコと富十郎の踊りを見て いる。 そのうちに、富十郎の踊りに合せて、手の振りを真似するようになっ た。 それが、楽しそうで、なんとも可愛らしいのであった。
そうかと、気が付いた。 1929(昭和4)年生れの富十郎は、67歳の1996 年に33歳年下の元女優と結婚、70歳で長男・大、74歳で長女・愛子に恵まれ た。 長男は中村鷹之資の名で舞台に立ち、富十郎は20歳になったら、富十 郎の名跡を譲ると公言している。 可愛い黒衣は、7歳になる長女だろう。 年 頃になったら、祖母吾妻徳穂の日本舞踊家元を継ぐのだろうか、あるいは、歌 を歌い、映画や演劇に出、キリン・コクの時間や三菱UFJモルガンスタンレー 証券の、コマーシャルに出て来るのかもしれない、などと思った。
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