佐野洋子さんの「ビンラディンの外見」2011/05/08 06:58

 昨年11月5日に亡くなった絵本作家で、エッセイストの佐野洋子さんの、 随筆の評判は聞いていたのだが、読んだことがなかった。 『役にたたない日々』 (朝日文庫)を読み始めたら、何度も吹き出してしまう。 これは電車の中で は読めない。 2003年秋から2008年冬までの日々、大人(老境)の本音丸出 しの、豪快な文章に引き込まれる。 人物などの描写が見事で、ユーモアと切 れのある名文だ。 三つ年上のほぼ同年代、期間も<小人閑居日記>と重なる が、力量の差は歴然、遠く足許にも及ばない。

 2006年秋。 「六十八歳は閑である。六十八歳は誰からも求められていない。 六十八のバアさんが何をしようとしまいと注目する人は居まい。淋しい? 冗 談ではない。この先長くないと思うと天衣無縫に生きたい、思ってはならぬ事 を思いたい。そしてテレビを見ている。前々から思っていたが、オサマ・ビン ラディンという人は立派な風格をしている。哲学的かつ知的で姿が優美静謐で 目が深い様に見えてしまう。世界中から憎悪されているが。」

 「ブッシュの顔を見ると、とても恥ずかしい人類の顔だと思う。ビンラディ ンがどの様な悪党か知らぬが、私たちは本当の事など何も知らない。考えるべ き基準など、少なくとも私にはない。9・11で三千人位の人が死んだが、アフ ガニスタン、イラクでは四万人以上の市民が死んでいる。こういう事って正義 なのであろうか。正義の話ではない。人の外見のことである。」

 「ビンラディンが細長い顔とひげとターバンと質素に見える民族衣装をつけ て立っているのを見ると好もしい外見であると私は思ってしまう。」

 「北朝鮮の金正日は解りやすくて安心である。安心しておおいやだ、とんで もない奴だと思えて嬉しい。」

 アメリカによるビンラディン容疑者殺害のニュースで、9・11当時ブッシュ 大統領が西部劇の“Most Wanted”(お尋ね者)と同じで“dead or alive”だ と言っていたのを見た。 今回のアメリカのやり方は、西部劇当時そのままに なったのであった。