権太楼の「二番煎じ」前半2016/03/09 06:39

 前方(まえかた)は文治さん、可愛い後輩、いい男です。 陽気で楽しい子 だと思っていたら…、馬鹿でした。 だから、噺家になったんだと思います。

 火事と喧嘩は、江戸の華。 町内で火事を防ぐ自衛団をつくって、一人ぐら いはちゃんとしたのをと番太郎を雇うのだが、人生もういいやとくたびれてい る、それではいけないと、町内の旦那衆が回ることにした。 役人がそれを見 回る。 夜回り、日回りする。 みんなで回るんじゃなくて、一の組、二の組 と二派に分けたらどうか。 月番さん、いいところに気が付いてくれた。 一 の組は、月番の伊勢屋の旦那が、黒川先生は拍子木、辰っつあんは金棒、宗助 さんは提灯持ち、と指名する。 伊勢屋の旦那は、番頭から小僧まで風邪で、 丈夫なのは私だけ、誰が行くかとなったら、家内まで私を指差した。

 ウォーーッ、寒い。 コツン、コツン。 黒川先生、チョン、チョンでしょ。 拍子木が、たもとから出たくない。 コツン、コツン。 金棒、引きずってい るよ。 ズルズル、ズルズル、コキン、コキン。 何? 石にぶつかった。 ポ チャ、ポチャ。 水たまりだ。 宗助さん、黙っていると、徘徊老人だかどう か分からない、声を出して。 火の用心、火の回り! お安くしますよ、お座 敷遊び…、♪裏の背戸やに ちょいと 柿植えて 柿植えて ちょいと 火の 用心。 ボボボボ、ボヤになるよ。 黒川先生、一つ寒稽古のつもりで。 (謡 で)火の用心、火の回り! よしなさい、方々で明りが点き始めた。 辰っつ あん、吉原(なか)で火の用心をやったことがあるって。 長半纏でね、ちょ いと形がいいんで、女が放っとかない、こっちへ来て一服しなんせ。 煙管の 雨が降るようだ。 ♪火の用心、さっしゃりやしょう! お二階の回りやしょ う! この声で、女がどんなに泣いたかと考えると、罪深いほどで。 ターー ン。 日本一だね。 お上手、お上手。 ♪火の用心、さっしゃりやしょう! 馬 鹿が調子に乗ると、何回でもやります。 オオオオー、わし、腹が減っちまっ て。

 着いたよ。 寒かったね。 辰っつあん、後ろを閉めて。 宗助さん、炭を 二つ三つ、放り込んで。 一の組は、分が悪い。 二の組は、暖ったかい思い をしてから、出て行けばいい。 そんなことはございません。 月番さん、家 を出るとき、娘が瓢(ふくべ)に酒を入れて、みなさんでやったらどうか、と。  火の番ですよ、何を考えているんです、あなたなんか止めるのが役でしょう。  駄目ですよ黒川先生、何を考えてる。 年甲斐もなくて、すみません。 貸し なさい、こっちへ。 土瓶、空けちゃって、火にかけてるけど、どうする。 飲 むんです。 お酒は駄目だけれど、土瓶から出る煎じ薬ならいい。 実は、私 も一本持って来た。 湯呑茶碗でやりましょう。

 宗助さんは、酒の肴。 これなんですけど、猪(しし)の肉、葱刻んであっ て、味噌を付けて…。 鍋、ないよ! 持って来ました。 猫背だなと思って いたら、鍋背負って町内を歩いていたのか。 いきましょ、いきましょ、急い で、二の組が戻らない内に。 辰っつあん、こっちへ来て、飲みな。 様子が おかしいね、酔ったのか。 月番さんが、酒、捨てちゃあいけないと思ってね。  しんばり棒をかっちゃおう。 お疲れさん、いいですね。 酒は百薬の長って いうからね。