竹森俊平著『国策民営の罠』 ― 2017/04/19 06:33
高校の同級生、神出瑞穂さんが総合知学会のホームページに「わが国原子力 発電のあり方を問う!」という提言を3月11日に発表したと、送ってくれた。 彼がグループリーダーとしてまとめたものだ。 10の提言の中の4つの提言に 「国策民営」という言葉が見られる。 提言2は「なぜ原発は「国策民営」で 推進されてきたかを認識しよう」であり、提言6から8は「国策民営からの決 別」(1)(2)(3)である。 私はざっと読んで、「国策民営」という聞き慣れ ない言葉の、くわしい説明が必要かと思うと返したら、「「国策民営」はエネル ギー政策関連の用語として新聞によく出てくる言葉です」という返事が来た。
「国策民営」をネットで検索して、図書館で竹森俊平著『国策民営の罠 原 子力政策に秘められた戦い』(日本経済新聞出版社・2011年10月)を借りて来 た。 竹森俊平さんは、慶應義塾大学経済学部教授、2005年に福澤研究センタ ーのセミナー「明治経済の隠されたドラマ」を聴いたことがあり、それとは別 にブログに下記も書いていた。
竹森俊平教授の「失われた20年 政治の責任」<小人閑居日記 2012. 9. 15.>
成長重視のアウトサイダーが現れる<小人閑居日記 2012. 9. 16.>
竹中平蔵教授の反論、規制緩和で成長の持論<小人閑居日記 2012. 9. 17.>
そこで『国策民営の罠』だが、竹森俊平教授がいろいろと調べたところ、電 力会社が「原子力推進」という国策を実行することによって、低金利で社債を 発行するという特権を確保する一方で、その特権が「原子力推進」という国策 の実現を容易にしたことが、分かってくる。 そこで一つの疑問が浮かぶ。 「国 策」を遂行する主体は、なぜ「民営」でなければならなかったのか。 なぜ、 「国策国営」という、より自然な形態で原子力政策を推進することができなか ったのだろうか。 またそもそも、「民営」である日本の電力会社の側に、単に 「国策」の遂行機関に成り下がることへの抵抗はなかったのか。
それで竹森教授は、日本の電力業の歴史を調べ、第3章「民営か国営か」で、 松永安左エ門の先見性や、福沢桃介との違いに触れている。 まことに興味深 い問題だ。 日本電力史研究の第一人者という橘川武郎氏の『松永安左エ門』 『日本の電力業発展のダイナミズム』を参照している。 私はこの橘川武郎氏 も、その著作も知らなかった。 竹森俊平教授は、橘川武郎氏の著作を読んで、 そこには一貫した主張があることが分かった。 「つまり、日本の電力産業の 基礎をつくった松永安左エ門(1875~1971年)は、徹底して電力の「国家管 理」に対立してきたというのである。現在のわが国の電力業のモデルである、 発電・送電・配電の3部門が垂直統合された地域独占による10電力体制は、 そもそも松永が戦前から提案していたモデルであったが、松永はそれを電力の 国家管理という、日本の電力業界に根強い影響力を持っていた、もう一つの経 営思想に対抗して打ち出したのである。」
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