柳家権太楼の「死神」後半 ― 2017/06/11 06:43
先生、お薬を頂きに来ました。 藥か。 大根の葉を庖丁で刻んで、紙につつ んで、はい、藥。 生ごみじゃないの、これ煎じるんですか。 味噌汁に入れ ると、いいかもしれない。
たちまち評判が広まり、患者が殺到した。 死神が足元に座っていれば、助 かるな。 たまたま枕元にいると、寿命がないなと言って、玄関を出るか出な い内に、患者が死ぬ。 たいそう儲かって、門構えに、若い女を侍らせて、贅 沢三昧。 女が、上方見物をしたいと言えば、いいねと、京、大坂で、大名遊 び、帰る頃には、すってんてん。 江戸へ戻ると、誰もいなくなった。
医者の看板を出すが、誰も訪ねて来ない。 呼ばれて行くと、みんな死神が 枕元に座っていて、お足にならない。 深みにはまる。 金のないことに苦し む。 麹町の大黒屋金兵衛、日本でも五本の指に入るかという、あの豪商。 助 けたら、何百両でも出すというので、行くと、案の定、枕元。 これは無理だ というと、そこんところを何とか、15日、持たせてくれ、と。 15日で、身 代が助かる。 おかみさんは、千両出すから、7日助けて、と。 駄目は、駄 目。 そこを何とか、二千両、5日。 銭は欲しいが、駄目は、駄目。 はい、 3日で五千両。 五千両でも、駄目。 そこを先生のお知恵で。 知恵? ち ょっと待ってくれ、番頭さん、こっちへ来てくれ。 腕の達者な、機転の利く 若い衆を四人。 蒲団の四隅に座らせて、私が膝をポンと叩いたら、蒲団をク ルッと回す、頭が足に、足が頭に来るように。 いっぺんしか、出来ないよ。
夜が更けてくるが、死神は、病人を睨んでいる。 病人の息が、だんだん浅 くなる。 朝の6時過ぎ、死神の目はらんらんと輝いている。 10時、11時 …、1時、2時。 死神も、80歳を過ぎて、体力がなくなっている。 コクッ と、なった。 膝をポン、「アジャラカモクレン、キューライス、タカヤス、 オオゼキ、オメデトウ」、ポンポン。 驚いたのは、死神だ。
五千両と、内金五両、途中の居酒屋で一杯ひっかける。 死神の様子ったら なかったね、ウッヒャーッって。
おい。 死神さん、久し振り。 大恩ある俺に向って、何て言うことをして くれた。 お前は軽いんだ、俺は死神協会の常任理事を辞めさせられた。 こ っちへ来い、見せてえものがある。 どこへ行くんだ。 真っ暗な穴へ入って …。 こっちだよ。 えれえ数の蝋燭だ。 この蝋燭の一本一本が人間の寿命 だ。 えれえな、こりゃあ。 太くて、長いのが、お前の叩き出したセガレだ。 パチパチ撥ねている、それがお前の別れたカミさんだ。 銭(ぜに)、銭って、 言っていそうだ。 芯だけで消えそうな、危ねえのがお前の寿命だ。 本当の 寿命は、あそこの長いのだが、五千両でてめえの命を売ったんだ。 替えられ ないよ、枕元の死神に手を出したろ、それで命を金で売ったんだ。
ちょっと、待って、また助けて、死んちゃん。 気安く呼ぶな。 灯しかけ を、手前でつないでみろ。 うまくいけば、つながるかもしれない。 震える と、消えるぞ。 死ぬぞ。 アーーッ。 消えるよ。 震えるな。 アーーッ、 アーーッ。 消えたな。 (ゆっくりと、斜め前に倒れる)
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