三笑亭夢丸の「将棋の殿様」後半2019/12/06 07:14

 殿様が将棋というと、みんな逃げる。 その方らは弱い。 一同の者、控え おるか。 殿が余りにもお強い。 余が一計を案じた。 逃げた者は切腹じゃ。  勝った方が、鉄扇で打ち据える。 殿がお負けになられても? 勝負のことじ ゃ。 お飛び越え、お取り払い、駒のお手討ちは、ございませんな。 まあな、 多少あるやもしれぬ。

 しかし、アッという間に、勝負がつく。 仕舞じゃ、鉄扇を。 家来の頭は、 瘤だらけ。 瘤と瘤の間が合体して、二倍になっている。 こっちは血だらけ、 あたま血イ世の中だ。 

 田中三太夫、お年寄、病気でしばらく休んでいた。 殿様が奇想天外な手を 使い、殿様の頭には瘤が一つもないと聞き、おのおの方の仇を、と。 おう、 爺ィか、皆、弱いでのう。 本日は、この三太夫がお相手を。 殿には昔、将 棋をお教え致しましたが、だいぶご上達のご様子、間に鉄扇が賭かっておると か。 三太夫はよい、余の情けじゃ。 この薬缶頭はへこみません、ぜひとも お手合わせを。

盤駒を持って参れ。 余の駒が並んでおらん。 将棋は畳の上の戦さ、並べ 方もご存知ないのでは、大将は務まりません。 飛車と角が、逆ですが…。 余 が先手じゃ。 ヘタが先手と決まっております。 まず、角道を。 殿、ヘタ は角道を開けるもので。 爺ィは、早いのう。 ヘタな考え、休むに似たりと 申します。 桂馬を取ってはならん。 そんな訳には参りません、これは戦さ、 身分の上下はございません。 余は、こうじゃ。 (勝手に取った)その飛車 は、お返しを。 (殿様は)投げ返す。 (三太夫は)元に戻す。 それでは、 殿、王手。 そこは角、そこは桂馬が効いております。 余の行く所がないで はないか、負けとうない、終わらん。 それは策も略もなく、馬鹿大将のなさ ること。 能ある大将は、ご決断を。 負けじゃ、余の。 お約束の鉄扇をば ご拝借、武士に二言はないはず。 三太夫若きより、一刀流片手打が得意で。  指をポキポキ鳴らして、殿、ご免。 頭ではなく、膝頭をバチッと打つ。 そ れでも、ポロポロッと涙、痛い! 片付けよ、盤も燃やせ。 今後、わが藩で 将棋を指す者は、切腹を申しつける。