桂吉弥の「胴乱の幸助」前半2020/03/03 07:26

 前座の林家彦星が、見台(上部は平らな小机)と膝隠し(衝立)を立て、見 台の上に小拍子(こびょうし、樫製で二本一組)を置く。 吉弥は朱色の羽織、 出囃子は「真室川音頭」だと言い、その関係で大阪茨木の出身だが山形県真室 川町の観光大使を務めているので、歌わせて頂く、と。 ♪私ャ真室川の梅の 花 コーリャ 貴方マタこの町の鶯よ ハ コリャコリャ 花の咲くのを待ち兼ね て コーリャ 蕾の内から通って来る ハ ドントコイ ドントコイ 真室川町で は、午後5時になると「真室川音頭」が流れ、ランドセルを背負った小学校5 年生の女の子が、♪私ャ真室川の梅の花 コーリャ 貴方マタと歌っている。 観 光大使に、毎年、新しいお米が届く。

 吉朝の弟子、米朝の孫弟子、吉朝が亡くなって15年、米朝が亡くなって5 年、寂しい弟子。 ええ人は、早く亡くなる、ざこば、南光はまだ。 噺家は 長唄、鼓、踊り、浄瑠璃などを稽古するのだが、お茶の稽古をしている。 裏 千家、名は言わないが高槻の林先生(失礼)、足の運びを教わる。 右から入り ますよ(と、優しかったのが)。 二年になると、右! 左! そりゃ右でないか いな。 両方揃えて、ジャンプ。 最近、ドラムを稽古している。 課題曲が SHISHAMOの「明日も」、間奏で休んでいたら、久しぶりに足が震えた。

 明治の初め、浄瑠璃が流行った。 おーい、何してんねん。 立ってんねん。  ただ立ってんのか。 銭がないから、飲めんのや。 銭がなくても飲める。 酒 樽が転がりこんでる。 右側の背の低い人、知っているか。 胴乱の幸助、横 町の割木屋のおやッさんだ。 道楽がない、何も知らん、花街行ったことがな い。 何の楽しみもないけれど、喧嘩の仲裁が楽しみなんだ。 この喧嘩、わ しに任せるかと言って、任せると小料理屋で一杯飲ませるのが楽しみや。 俺 とお前が喧嘩をする、それで一杯よばれよう。 こないだなんか、犬の喧嘩ま で仲裁した。 犬も一杯飲むんか。 煮売り屋で、生節(なまぶし)買って来 て、食わすんだ。 犬はムシャムシャ食って、また喧嘩、煮売り屋と犬の喧嘩 の間を十六ぺんも往復した。 お前、わしの肩に行き当たれ、わしがどつく。  こっちに(頭の左側)でんぼ、出来物できとるさかい、どつかないでくれ。 そ れから、蹴り上げて、アバラをドーーンと。 そら急所や、やめさせてもらう。  じんわり、じんわりやるから大丈夫だ。

 行き当たって喧嘩が始まる。 (でんぼをどつかれて)こっちはあかん、つ ぶれた。 痛い、痛い、指が目に入る。 喧嘩が本気になってきた。 昼日中 から往来で、喧嘩している。 ちょっと、待て。 お前ら、わいを誰や、知っ とるか。 割木屋のおやッさんで。 その喧嘩、わしに任すか。 一も二もな く、任せます。 任せることになってまんねん。 連れて行きたいところがあ る。 うまくいったな。

 いつもの二階、いつもの段取で、頼む。 階段を譲り合うな。 二人の言い 分を聞かんとならん。 どういう所から、もめごとになったか、聞かせろ。 泣 くな、お前。 初め、あたいが立っていたんで。 すると、こいつがタダで飲 める、酒樽が転がっていると。 飲めるとか、飲めんとか、どっちが銭出すと かで、喧嘩になったんか? なさけないな。 盃を取れ、飲んだら、こっちへ 回せ。 そいで、わいにも注いでくれ。 手打ちだ、これでさっぱり水に流し て、仲良くせえよ、わいはまた、ほかに大きな喧嘩があるといかんさかい、こ れで失礼。

 おやッさん、そらあかん、銚子一本だけで。 銚子でも、小鉢でも、下に言 ったらええ。 天婦羅も、土産もよろしいか。 もう、喧嘩はすんなよ。 お やッさんが通らなんだら、喧嘩することはない。 アホやな。 二階、鰻巻き (うまき)でも持たせてやってくれ。 もめたら、またわいを呼んでくれ。 あ れ位の喧嘩では頼りない。