桂やまとの「ひなつば」2020/03/05 07:19

 桂やまと、ひょいひょいと出て、一杯のご来場で、嬉しいもんですね、と。 知 り合いの薬剤師が「新コロ」とつめて言う。 古今亭新コロなんて、いそう。 こ ういう時に寄席にいらっしゃるのが、真の落語ファン。 上野鈴本2月下席のト リだったが、見事に影響があった。 どこに座っても、濃厚接触無し。 まっす ぐに育ってほしいと、親は教育に力を入れるけれど、子供は親の分身、まあ親馬 鹿なんでしょう。

 おっかあ、いま帰ったよ。 機嫌が悪いね、喧嘩でもしたのかい。 人間やめ たくなった、いやんなっちゃった。 お屋敷で、松の木の枝を下ろしていたんだ。  若様がお通りになるから、手を止めろ、と。 ちっちゃい子供が、紋付羽織袴で トコトコ動く。 お供の侍が5、6人ついてる。 泉水べりで、穴あき銭を拾って、 つーーっと駆け出した。 田中三太夫様の鼻先に突き出して、聞いてんだよ。 爺 ィ、これは一体なんじゃ、と。 お足を知らねえんだよ、驚いたね。 三太夫様 は教えないで、若様は何と思召しますか、お当て下さいと言う。 爺ィ、まある くて、四角い穴が明いていて、裏に波の絵がある、これはお雛様の刀の鍔であろ う。 可愛らしい見立てじゃねえか。 落ちている物は不浄の物、お捨てあそば せ。

 あとで、若様おいくつになられますかと、三太夫様に聞いた。 お八歳にあら せられる。 来年はオクサイかね。 ウチのガキ、金坊と同じ齢だ。 金坊はい つも、銭くれーー、銭くれーー、という。 駄目だといったら、漬物の桶に小便 しやがった。  

お前さんの後ろに、金坊がいるよ。 洟を一本半垂らしやがって、かめ、かめ!  袂(たもと)で拭くな、いくつなんだ。 お八歳。 話を聞いてたな。  お屋 敷の若様なんて、ちゃんちゃら可笑しいや。 表に行って、遊んで来い。 じゃ あ、行きやすいようにしておくれ、銭おくれよ。 (おかみさんが)ハイハイハ イ。 駄目だ、やるな、銭はやっちゃあ、いけない。 お前さん、一本気なのは いいけれど、お屋敷の若様と、長屋の植木屋の息子とは違う。 あいつは客が来 ると、俺の所に近づいて来る、シクシク泣いて、涙を我慢するふりをするから、 客が金をくれるんだ。

 熊さん、私だ。 お店の旦那だ。 座布団を出せ、穴があるから、くるっとひ っくり返せ、あ、穴が大きくなった。 ご用は。 私の方から来なきゃあ、収ま らないと思ってね。 この間、酒を飲んだ時に来て、こんな家はこちらから出入 り止めだ、と怒鳴ったそうだな。 番頭呼んで、問い質して、合点がいった。 庭 を、他の職人がやっていた。 私が悪い、番頭が気を回してね。 松の植え替え は彼岸までと聞いていたんで、この年になると早く片付けたくなってな、それを 番頭が察して、しるべの植木屋に頼んだんだ。 機嫌を直して、家に来てくれな いか、この通りだ、すまねえ。 お手を上げて下さい、ありがとうござんす、建 前で酔っ払って通ったら、知らねえ職人が仕事をしていたんで、つい。 しくじ ったな、と思って、親父の顏が目の前にチラチラ、今日謝りに行こうか、明日行 こうかと、こっちから怒鳴ったんで、敷居が高い、近所に火事でもあればと、三 軒先に火を点けようかなんて思って。 また、来ておくれよ。

 粗茶ですが、一杯。 つまむもの出せ。 買って来る。 羊羹があるだろう、 去年の正月のだ。 菜っ切包丁はいけねえ、ネギの臭いがつくだろう、折の蓋で 切れ、厚くな、了見見られる、鯨尺持って来るんじゃない。 折の蓋をなめるな、 なめるなら縦じゃなく、横になめろ、目を白黒させてやがら。 半紙を折るんだ、 半分に。

金坊が帰ェってきたよ。 こんなもの、拾った。 これなんだろうね、あたい が思うには、丸くて、四角い穴が明いていて、裏に波の絵があるから、お雛様の 刀の鍔かなあ。 ちょっと待て、この子はお前さんちの子だろ、お足を教えてな いんだね。 へえ、そうなんですよ、教えてねえんで。 そうかい、この子はい くつだ。 お八歳で。 家の孫と同じだ、いつもお爺ちゃん、お鳥目をくれと言 う。 旦那、こいつは危険です。 丸くて、四角い穴が明いていて、裏に波の絵 があるから、お雛様の刀の鍔かい、恐れ入ったね。 これで何か買えばいい、い や、手習いの道具にしよう、墨、硯、机を届けさせる。 金坊、お礼を言え。 手 に持っているのは、不浄の物だ、捨てちゃえ。 いやだよう、これで焼芋を買っ て、食べるんだよ。