戦国時代の日本と世界史<等々力短信 第1133号 2020(令和2).7.25.>2020/07/25 06:57

 戦国時代の日本は、ちょうど世界史の大転換の時期と一致して、その最前線だった。 大航海時代によって世界貿易、グローバル経済が出現し、キリスト教の世界布教が重なって、覇権が争われていた。 NHKスペシャル「戦国~激動の世界と日本」「(第1集)秘められた征服計画 織田信長×宣教師」「(第2集)ジャパン・シルバーを獲得せよ 徳川家康×オランダ」が面白かった。 バチカン市国イエズス会ローマ文書館の宣教師達の報告書や書簡、オランダ平戸商館長の記録など、16世紀の文書が公開され、信長・秀吉・家康と宣教師や商館長、その背後にいたポルトガル・スペイン・オランダとの深い繋がりが見えてきたというのだ。 知らなかったり、本当かと思うことが多い。

 織田信長が武田との長篠の戦で使った鉄砲玉を分析したら、タイの鉱山産の鉛だった。宣教師カブラルが、高く評価して緊密な関係になった信長に「天下統一したければ、キリスト教の布教を支援せよ」と伝え、ポルトガルの交易船で大量の軍事物資を運ばせた。

 スペインは全世界を勢力下に収めようと、インドのゴアなどを占領、改宗させ、日本でも信長と組んで、それを進めようとした。 最大の障壁が仏教勢力で、石山本願寺と十年戦ってきた信長に、キリシタン大名高山右近らの援軍1万人が加勢して、破る。

 戦国日本は、鉄砲国産化の独自の技術革新など、軍事革命ともいうべき軍事力を持っていた。 ポルトガルを併合して、世界戦略を進めるフェリペ2世のスペインは、日本の軍事力を利用すれば、アジア最大の国土と人口を持つ中国(明)の征服が可能になると分析していた。 だが、信長と宣教師の蜜月は、信長が天下統一を目前に自信を深め、「われ神にならん」と宣言したことで終わりに近づき、本能寺の変で断ち切られる。

 スペインと宣教師の計画は止まらない。 明智光秀と羽柴秀吉の山崎の戦いでは、宣教師は高山右近らを秀吉方に加わらせ、豊臣政権中枢にキリシタン大名が多くいた。 宣教師コエリヨは、秀吉に、目標が一致しているとして、明国への遠征、その足掛かりの朝鮮出兵を働きかける。 秀吉もさる者、最前線でキリシタン大名を戦わせ、バテレン追放令も出していた。 さらに秀吉は、スペインの植民地フィリピンの大量の金や国土を、朝鮮出兵、明国征服の資金に狙っていた。 アジアを発火点に「最初の世界戦争」の危機だった。 だが、それは、フェリペ2世と秀吉のあいつぐ死で終わる。

 関ヶ原で、オランダ漂着船の武器弾薬を使った家康は、オランダと貿易を開始、新興国オランダは日本の豊富な銀を得て、スペインの布教を禁止させ、貿易戦争に勝ち、覇権を奪う。 大坂の陣でもスペインは豊臣秀頼を押したが、オランダの大砲が火を噴く。

 9日~16日のブログに詳しく書いたので、用心しながら、お読み下さい。

春風亭一之輔の「らくだ」その一2020/07/25 07:00

 一席、申し上げます。 あるお長屋に馬さんという人がいました。 昔、ラクダが大陸から見世物で来た。 図ゥ体ばかりでかくて、何を考えているのかわからない、乱暴者で、嫌われている、いつしか皆、らくだの馬さん、らくださんと呼ぶようになった。 同じようなのが集まるようで。 おい、いるかい、らくだ! 開けるぞ、寝てんのか、起きろ、俺だい。 何だ、死んでるよ。 往来でばったり会ったんだ、でかいフグを下げてやがって、自分でさばいて食うんだって。 中(あた)ったら、どうする、って言ったら、こっちが中てやらあって言った。 らくだもフグにはかなわないんだ。 弔いの真似事でもしてやりたいが、生憎、一文無しだ。

 「くずいーーっ、屑屋、お払い!」 おい、屑屋! アーッ、えらいことになっちゃった、らくださんとこだ。 こっちへ来い。 らくださんは、お休みですか。 死んだよ。 またぁ。 またも、ケツもあるか、フグに中って死んだんだよ。 フグに中って、ふぐ死んだんですか。 手前え、この野郎、人の生き死にのことを、シャレや冗談にするんじやねえ(襟首をつかむ)。 すみません。

 俺は兄弟分で、丁の目の半次という者だ。 はい。 言ってみろ、名前、教えたろ。 チョロ……、チョロチョロの半助さん。 丁の目の半次だ、弔いの真似事をしたい、そのへんにあるものをバッタで買ってけ。 らくださんのとこは駄目なんで、へっついは崩れちゃう、七輪は鉢巻きしてて開いちゃう、七輪が一輪になっちゃう。 シャレを言うんじゃない。 すみません。 土瓶は、ツルと蓋はあるが、底がない。 何か買え! これ、お香典というほどじゃない、お線香代で(半次、サッと懐に仕舞う)。 ありがとな。 じゃあ、これで、勘弁して下さい。

 月番の家はどこだ。 長屋の入口で。 行って来てくれ。 これから商売に行くんで、今日、口銭稼いでない、子供がいる、十四を頭に五人、稼がないと釜の蓋が開かない。 子供か、今日中によくツラを拝んどけ、お前、生きてあと二三日だな。 ヘェーーッ。 行って来いよ、出商人(あきんど)が、得意先に不幸があったら、働くのが当り前だ。 長屋には祝儀不祝儀の付き合いがあるだろう、香典かき集めて持って来い、なまじ品物だと面倒だから、金でと、言ってこい。 ザルと秤、預かっとく。

 らくださんが、死んだんですよ。 よくあるよ、喧嘩で死んだって聞いて喜んだら、相手が死んだ。 口から血の泡吹いて、目と目があっち向いて、死んだんです。 本当に? 嘘じゃない。 嘘だったら、お前殺すよ。 誰かに言わなきゃあ、辰っつあん、らくだが死んだってよ、屑屋が知らせに来てくれた。 兄弟分てのがいましてね。 どうせ、チンピラだな。 顔中、傷だらけで、傷の見本市みたいな人で。 その人が言うには、長屋には祝儀不祝儀の付き合いがあるだろう、香典かき集めて持って来い、なまじ品物だと面倒だから、金でと、言ってこい、と。 よろしく、さよなら。

 待て、祝儀不祝儀の付き合いなんて、あいつは一回もないよ。 こないだ寄合があって、立て替えたんだよ、さんざん飲んで騒いで、あくる日割前を取りに行ったら、ないよって、ガーーンと拳骨で殴られた、奥歯折れてんだ。 辰公も横っツラ、張られて、今でも耳がビンビンしてんだ。 誰が香典なんか持って行くか。 なあ、辰公。 死にゃあ仏だ、出してやろうよ。 屑屋、お前も早く逃げたほうがいいよ。

 で、香典、持って来んのか、来んならいいよ。 大家の家はどこだ。 この裏です。 行って来てくれ。