桂米輝の「八五郎坊主」2024/04/28 07:35

 25日は、第670回の落語研究会だった。 いきなり高い大声で「ありがとうございます」と、米輝(よねき)、赤く細かい縞模様の着物だ。 ツルツル頭、こういうニックネームをつけてくれた人がいる、「甦った瀬戸内寂聴」、言われて見れば、なるほど似ている。 米朝の息子、米團治の弟子で、三年間は師匠に教わったネタ以外は演じてはいけないといわれている。 「軽業」を教わって二か月、若手勉強会で初演した。 師匠に報告すると、「まだ教えてへんやろ」と叱られた。 二か月前に習ったと言うと、「おぼえてへんな」。 そこへ米二師から携帯がかかり、米輝を使いたいのだがとネタの相談、「軽業」はどうだろうって話している。 三か月後、その会があって、挨拶に行き「軽業」をやるというと、「そんなん教えていない」。 デジャブ。

 八五郎が、甚兵衛さんに、わては身寄りもない、やる仕事がない、つまらん奴は坊主になれっていうから、心やすい手頃な坊さんはいませんか、手下になりたいと手紙を書いてくれませんか。 手下でなく、弟子だろう。 手紙を書いたから、糊で貼るんで、台所でご飯粒を一つ取って来てくれ。

 炊き立てのご飯だ。 アウン、アウン、アウン!(と、何度も手で食べ)、お櫃(ひつ)がないな(と、掌に山盛りにして、持って来る)。 手を洗ったんか? 二日前に。 食べてしまえ。 (全部食べて、また一粒取りに行く。)

 下寺町のズクネン寺、大きな銀杏の木がある。 裏の庫裏にまわり、一間半の格子戸をガラガラ、ご免!ご免! 声が、こだまする。 ナマンダブ、ナマンダブ! なんだ、お前さんは? 人間で。 私は伴僧、ご住持は奥で書見をなさっている。 甚兵衛さんのお使いで、この手紙を、ご住持に。

 出家したいというのはお前さんか、文末に、この男は愚かしいとある。 なるほどな。 気の変らぬ内に、頭を丸めることにしよう。 チエンや、水の用意を。 二円や、三円や! 頭をしめしなさい。 (八五郎、両手で、頭を指差す) 違う(と言うと、水を飲む。) チエンや、お代わりを。 ナマンダブ、ナマンダブ! 御唱和を。(と、頭を剃る) 鏡を。 寺方に鏡はない、水鏡で。 何だ、顔中シワで、歯が抜けて。 ワシじゃ。 寺の衣に着替える。 出家名をつけよう、名は? 八五郎、みなガラッ八と呼ぶ。 「八法」は、どうだ? 吉本興業に怒られませんか。 「六法」なら、あと五と三が来たら…。 「法春」は、どうだ? 「♪ホウシュン(疱瘡)も軽けりゃ、ハシカも軽い、♪ホウシュンも軽けりゃ、ハシカも軽い」 何という名でしたか? 「法春」じゃ。 「♪ホウシュンも軽けりゃ、ハシカも軽い、♪ホウシュンも軽けりゃ、ハシカも軽い」 何という名でしたか?

 「法春」じゃ、そう何度も忘れては、どうもならんな。 天竺に、釈尊の弟子で周利槃特(しゅりはんとく)という人がいて、お前さんのように物忘れが激しい、名前を大きな板に書いてもらって、それを背負って歩き、やがて悟りを開いて高僧になられた。 亡くなって、その墓から、草が生えたのが、ミョウガだ。 草冠に名と、荷うと書いて「茗荷」、食べると物忘れをするというのは、ここから来ている。 名前を、紙に書いて下さい、甚兵衛さんに挨拶に行って来ます。 ぞんざいな言葉はいけない、魚類も食わんように。 祝いに鶏のすっきゃきで、一杯やります。

 風が、頭の上をスーーーッと通るな。 衣が邪魔だ、端折って、尻からげして行くか。 坊主山道、どこが尻やら頭やら。 芳に、竹やないか。 八公、坊さんになったんだってな、名前は? 書いてもらった。 読んでくれ。 「法春」、ホウバルか。 ちゃう、ちゃう。 ホウという字と、春日大社の春日のカスだから、ホカスか。 いきなり付けてもらった名前をホカスな。 法はミノリと読むから、ノリカスか。 ちゃう、ちゃう。 そうや「♪ホウシュンも軽けりゃ、ハシカも軽い、♪ホウシュンも軽けりゃ、ハシカも軽い」、わいの名前は「ハッシカ」や。