「家産」と“家”の継承問題2005/11/14 08:36

 西澤さんは、そのほかに福沢の女性論・家族論に内在する問題点として、「家 産に関する矛盾」「“家”としての継承問題」も指摘した。  「家産に関する矛盾」。 福沢の近代化構想において「一身独立」は経済的な 自立と切り離すことは出来ない。 個人名義である公債証書を始め、財産は個 人所有として確立すべきとした。 たとえ夫婦であっても「私有の一点に至り ては特別の約束あるにあらざれば之を混合すべからず」(『男女交際余論』)と まで言っている。 その一方で、旧中津藩主奥平家や旧三田藩主九鬼家などの資産運用に尽力し た。 資本主義への移行期における「家産」の重要性を認識し、散逸による弱 体化を防ごうとした。 まとまった華族資産があればこそ『旧藩情』で説いた ような学校建設が可能だし、投機でなく投資の対象でなければならない鉄道な ど公共事業への資本投入も可能になる。 「家産」の維持は華族だけに留まら ず、国の担い手として期待する地方名望家層でも同様に必要だとした。 この ように、個人として所有されるべき財産が、“家”(「家産」)として所有されな ければならないという矛盾がある。 福沢はそれに何の解決策も示していない。

 「“家”としての継承問題」。 「家産」の維持において相続は重要な要件で あり、分割相続を行っていけば資産は細分化して“家”は再生産されないし、 単独相続では求めるべき家族形態と矛盾する。 だが福沢は、少なくとも女性 論の中では“家”の具体的な相続法は明示していない。

 福沢は女性の参政権についても「参政権はさておき」と言って、それ以上は 述べていないという。 『福翁百話』二十「一夫一婦偕老同穴」は、「自由愛情 (フリーラヴ)論」を紹介しながらも、今日の世では一夫一婦を最上の倫理と認 める、としている。 西澤さんの話の中で、福沢がいろいろの問題でしばしば 最終的な理想、進化して(進歩して)最終はここだが、今の段階ではここまで、 という相対的で現実的な議論をしているということが出てきた。