新聞の役割は、権力と世論のチェック2012/04/18 03:00

 日本の新聞の問題点で思い出すのは、田中角栄内閣を倒すきっかけをつくっ た立花隆さんのことだ。 『田中角栄研究―その金脈と人脈』(『文藝春秋』1974 年11月号初出)が出た時、日本の新聞はしばらく書かず、外国メディアが報 じてから社会問題化した。 記者たちは、そんなことは知っていたが書かなか った、あるいは知っているふりをして突っ込んだ取材しなかった、というのが 強く印象に残った。

 2006(平成18)年7月31日に、その立花隆さんと朝日新聞の外岡秀俊東京 本社編集局長の「徹底討論 ジャーナリズムの復興をめざして」が朝日ホールで あり、8月9日の朝刊の記事になった。 立花隆さんは基調講演で、こんなこ とを言っている。  「プレスの役割は、基本的には権力のチェックだ。権力は暴走しやすく腐り やすいが、同時に世論も暴走しやすい。そのチェックも報道の役割だ。」「速報 性では劣っても、一覧性(一覧性紙面の制作能力)と(何が起きてもすぐに解 説できる)解説力で、新聞は他の追随を許さない。」

 「日本では、上からの情報をそのまま伝える「大本営発表」のジャーナリズ ムになっていることも問題だ。具体的には記者クラブの問題で、抜け駆けをさ せないための協定など、世界の常識からみると異常だ。それは大政翼賛だった 「1940年体制」が、いまもメディアの基本構造の中に埋め込まれているからだ。 本当に現実に権力チェックや世論の暴走防止機能を発揮できているのか。戦争 の時代を振り返ると、軍人や権力者の一部以上に、国全体の世論、国民感情が 暴走していた。そこではメディアのチェック機能は働いていなかった。」

 「今、現実に暴走が起きているのが小泉報道とイラク報道だ。小泉人気は、 日中戦争の直前、近衛首相が時の混乱を救う英雄のようにあがめられたあの時 代の熱狂と同じ。大義のないイラク戦争で、自衛隊は実際に何をしていたのか。 戦時中の従軍記者よりも、今日の新聞はその実相を伝えていない。」

 討論で、外岡秀俊編集局長は、以下のように述べている。 「世論と権力が 一体で醸し出す環境に、メディアがすりよっているのではないかという反省を 改めて感じている。」「1941年から45年の間に朝日新聞は論調を変えて戦争を あおり、戦争の遂行について責任を負った。そうした事実から目をそらさず、 戦争をあおらない。これを原点にする。」「インターネット情報と違いを持たせ るのに必要なのは編集と検証機能、確かな情報に価値判断を加え、責任を持っ て提供し、読者の共感を得ることだ。」「ある一つのところに殺到し、それが過 ぎてしまうと問題そのものが消えてしまったかのようにしてしまう。こういう メディアのゆがみのようなものがあることは間違いない。」

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