喬太郎の「抜け雀」前半 ― 2014/04/05 06:34
一朝の音曲噺を受け、私は地味ですよ、と、喬太郎が始めた。 交通の便が よくなって、噺家も日帰りが多くなり、行って、演って、帰って来る。 学校 公演で、高校へ行く。 高校生にとっては、授業の一環という、不条理な世界。 倶知安へ行った。 「おしゃ、まんべ」の由利徹さんが、機嫌がいいと「くっ ちゃん」と言っていた倶知安。 高校公演のプロダクションが手配してくれて、 羽田から千歳、列車で小樽まで行き、小樽からタクシーで倶知安。 羽田まで 1時間半、千歳まで1時間半、小樽まで1時間半、タクシーが1時間半、合計 7時間、往復で14時間かかり、実働は25分。 小樽駅前では、手配してある わけでなく、タクシーを拾う。 倶知安まで広大な草原を行く、いるのはキタ キツネだけ、到着して1時間半で終るというと、じゃあ待っていようか、と言 う。 十分、仕事になる。 運転手さん、すっかり空気を満喫して、小樽の駅 の売店では、それぞれに竹輪とウーロン茶を買ってくれた。
タクシーの運転手さんで、よくない時もある。 自分の人生を、事細かに語 る人。 「競馬が好きでしょ」。 師匠のさん喬の家まで乗ったタクシー、身の 上を語る、実家が電器店でね、3人と5回結婚した、その内2人はフィリピン 人。 到着して降りる時、この続きは、また今度、と。
どうすんだよ、二階の客、と「抜け雀」に入る。 朝、昼、晩に一升、おや つに五合、日に三升五合飲んで、ごろごろしている。 まとまった分だけ、預 かりたい、五両、うちでお貸ししているからと、行っておいで。 おお、主(あ るじ)か、入れ。 長逗留は有難いのですが、ツケが溜まっております。 も うこれ以上、酒屋が卸さないと、へへへへ。 わからん。 五両、お預りでき ましょうか。 大か、小か。 小で、お願いします。 ない。 では、大きい 方で、最近小判など見たことがありません。 バカーーッ、小さい方がないの に、大きい方があるか、ハハハハハ。 さわやかだな、どうするんです。
仕事で払ってやる、わしは狩野派の絵師だ、紙を持って来い。 二つ、三つ 先の部屋に、新しい屏風があったな。 経師屋が泊ったら、一文無しでして、 勘定の代りに、つくったんで。 あれに描いてやろう。 けっこうです、あれ は売り物で。 いいから持って来い。 よい腕だ、さすがに一文無しで、旅を しているだけのことはある。 硯を持って来い、馬鹿、水を入れないで持って 来る奴があるか。 私は客だぞ、墨を磨れ。 いい匂いですね。 鼻だけは人 間らしいな。 絵師は、丹田に力を入れると、ササッと、描いた。 何を描い たんです。 雀を五羽描いた、一羽一両、全部で五両だ。 私は、これで行く。 私が帰るまで、けして売るな、ご免。
お金、預かったのかい。 経師屋の屏風に絵を描いた。 うーーん、あれは 売り物だよ、馬鹿ァーー、私はもう寝るよ、とおかみさん。
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