喬太郎の「小言幸兵衛」前半 ― 2016/04/08 06:16
十人寄れば色は十色、小言っぽいことを言いたくって、言う。 麻布古川。 源さん、いつまで顔を洗っているんだ。 お近さん、何で子供を引っ叩くんだ。 着物を汚した? 泣き止みな。 ふん、ふん、ふん。 うるせえな、このガキ は、そっちへ連れて行きな。 何だねえ、この犬は、イヤなガラだ。 食っち まうぞ。 何という空だ。 どんよりってのは、イヤだ。 お茶を淹れておく れ。 猫、蹴飛ばすな、猫ババア。 木戸がバタバタいってる、布巾が飛んだ ぞ。 すぐに掛けるな、ゆすぐんだ、キュッと絞って。 両方、同じ長さに掛 けるんだ。 釜の蓋が曲がっている。 良かあないよ。
人が来た。 家主の田中幸兵衛てのは、ここか。 店賃はいくら? 誰がお 前に貸すと言った。 貸さねえんですか。 商売は? 豆腐屋。 婆さん、近 所に豆腐屋はあったか。 離れてる。 ご家内は? あっしに、かみさんが一 人。 言葉に無駄が多い、一人に決まっている。 子供は? まだひり出さな い。 一緒になって何年だ? 所帯を持って八年。 そんな冷え性の女とは別 れちまいな、尻の大きい、春夏秋冬に孕むような女を世話してやる。 好いて 好かれて、一緒になったんだ、カカアが好きで、好きで…、バカーーッ、バカ ーーッ! 何だあいつ、泣きながら、怒って帰っちゃった。
手前、通行の者でございますが、表の借家をお貸し願えますでしょうや、こ の段、お伺いに参上いたしました。 この段なんぞ、なかなか言えるものじゃ ない、九段なら靖国神社だ。 婆さん、布団を出しな。 寝る布団じゃない。 座布団だ、ザ・フトンじゃないよ。 商売は? 仕立職を営んでおります。 婆 さん、お茶を淹れな。 仕立職を営んでおりますなんぞ、しゃれたな、飴屋な らベトナムだ。 ご家内は? 手前に妻(さい)、倅に職人の四っ人(たり)。 羊羹も切りな、形だから。 倅はいくつ? 今年、二十歳。 ご商売は? 同 職、最近は倅の名指しで注文が来る。 跡継ぎで、腕はお父っつあん勝りか。 職人でも、半分は商人でして。 そっぽの方は? お顔立ちだ。 それが手前に 似てない、いい男なんで。 独り身で、嫁さんの見当、全くない。 婆さん、 お茶と羊羹を片付けな。 この長屋から心中が持ち上がる。
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