小里んの「三人兄弟」前半 ― 2016/04/10 06:48
<親の脛齧る息子の歯の白さ> 三人の道楽息子、孝太郎、銀之助、吉松(き ちまつ)。 孝太郎は柳橋、銀之助は辰巳深川、吉松は吉原、「寒天のキチマツ」 といわれる、ぬらりくらり。 日遊び夜遊びで、遊び人が三人、揃って二階に 閉じ込められた。 孝太郎、どこへ行くんだ。 庭のはばかりへ。 奉公人の はばかりだぞ。 はばかりから、ぜひ来てという手紙が来まして。 駄目だ、 駄目だ、早く二階に上がっちまいな。 窓に格子がはまっているよ、御牢内み たいだ。 外を見よう、犬はいいなあ、どこへでも行けて、向こうから善公が 来る。 善公、ここだ、ここだ。 孝太郎坊っちゃん。 頼みがある、柳橋か ら状が来ている、夜晩く梯子を持ってきてくれ。 駄目ですよ、旦那に知れた ら、私はこの町内にいられなくなる、 いけません、とても出来ません。 他 の者には頼まない、お前の鼻の障子が落ちる時、医者や薬を世話したのは、誰 だ。 欲しがっていた煙草入に、一円つけるが、引き受けるか。 ありがとう ございます。
兄貴たち、夜も早いのに、もう寝るのか。 馬鹿っ花引くか、丁半でもやる か。 そんなもの、知らない。 兄貴たち蒲団二枚かけて、もう寝ちゃったよ、 一枚ずつはがして、四枚かけて寝るか。
銀之助、夜晩く孝太郎が四つん這いになって、物干しから屋根へ出るのを見 る。 ゴホンと咳払い。 梯子がかかる。 孝太郎が屋根の隅でお手水してい る間に、梯子を下りる。 やあ、善公。 銀之助さんじゃないですか。 兄貴 は後から来るよ、帰りに美味しいものでも買って来るから。
あーあ、こんなに早くから寝てられないよ。 おい兄貴、よく寝てんな。 夜 鳴き蕎麦だ…、吉原の夜鳴き蕎麦はいい声だからな、行きてえな。 藍微塵、 古渡り唐桟、二重廻しの三尺、素袷(襦袢を着ない)、身幅七五三、五分廻し?、 裾がまくれて膝が見える。 袂がない平袖、喧嘩になるとゲンコが飛び出す、 弥蔵組んで歩く。 袖に半紙入れている、鉢巻の下に巻くと、刃物が通らない、 血止めにもなる。 行きてえな、吉原。
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