「慶應義塾と戦争」アーカイブ・プロジェクト2016/04/16 06:22

 「慶應義塾と戦争」アーカイブ・プロジェクトというのは、慶應義塾の歴史 資料を調査収集する役割を持つ福澤研究センターが2013年8月から進めてい る活動だ。 失われてゆく戦争の遺物や記録、記憶を、「慶應義塾」という視点 をもちながら、できるだけ広範に丁寧に収集することを目指してきた。 その プロジェクトの中心となってきたのが、福澤研究センターの都倉武之准教授で ある。

 都倉武之さんは、3月25日の「等々力短信」第1081号「肉声が聞こえる記 録」に書いたシンポジウム「歴史と記憶とオーラルヒストリー」で、報告者の 一人となり、「『慶應義塾と戦争』をめぐるオーラル・ヒストリー―記憶とモノ を如何に繋ぐか―」という報告をした。 プロジェクトのきっかけになったの は、2013年2月の慶應出身特攻戦死者の遺族からの大口寄付だったそうだ。  先行研究(後述)を踏まえ、資料収集を前面に出した。 (1)モノ(一次資 料)収集・所在確認…小泉信三展(2008)、創立150年福沢諭吉展(2009)の 経験。 (2)聞き取り…多様なサンプルの必要。最後のタイミング、訪問し たら喪服を着た家族が出てきたケースもあった。 (3)データ…学内資料に より当時の学生をビッグデータ化。 (4)公開…アーカイブ化(検証可能性 の担保)。2年後を目処に調査報告書をまとめる予定。

 先行研究には、白井厚教授と同ゼミによる共同研究の成果、『共同研究 太平 洋戦争と慶應義塾』(1999)…アンケート7500通発送、1700通返信。 『証 言 太平洋戦争下の慶應義塾』(2003)…石川忠雄塾長、教職員など。 『アジ ア太平洋戦争における慶應義塾関係戦没者名簿』(2006)。 (私は白井厚教授 の仏書講読の授業を受けた。)

 聞き取りは、2013年8月から約100件、1回2時間ほど、都倉さんのほか 1,2名の院生・学生同伴、音声・ビデオ記録した。 対象は、軍隊・動員・疎 開等を経験した慶應義塾卒業生、戦時期の中退者(古屋豊さんは、ここに含ま れていたのだろう)、遺族、戦死塾員の元婚約者、戦友、近隣住民。 「戦争」 というテーマが与える警戒・懐疑もあって苦慮したが、「慶應義塾」OB会の結 束の強さがプラスに働いて拒否されることはなかった。 都倉さんの見た目も あって、もっと年を取った人が来ると思ったと言われた。 戦後70年という タイミングの作用もあり、本人の希少性の自覚も感じられ、よく話してくれた。  5,6時間に及ぶことも、泊まって行けといわれることもあった。

 今までに三田キャンパスで三回展示を行い、3月9日~16日には慶應大阪シ ティキャンパスで特別企画展「戦争の時代と大学」を開いた。 シンポジウム で、大阪の特別展の内容を抄録した冊子が配られ、頂いて来た。