閑(レイジュア)とその使い方2008/05/28 07:17

 山内慶太さんは前日の16日、「小泉信三展」に天皇皇后両陛下が来場された ことにふれた。 展示の中にエドワード・グレイの一節があるのをご覧になっ て、(皇后陛下が)「エドワード・グレイについて、よくお話になっていたわね」 とおっしゃった、という。 それは私も目をつけて読んだ展示だった。 「読 書雑記」の一編「エドワアド・グレイ」からの引用だった。 「グレイは人を幸福にするものを四つ教える。一は、吾々の行動を導く何等 かの道徳的基準、二は、よき家族と友、三は、己れの存在を有意義ならしめる 何等かの仕事、四は、或る程度の閑(レイジュア)とその閑の或る使い方これ である。」

最近の若い人は、仕事に忙しくて、本を読む閑もないという。 別の若い人 は、馬場のブログさえ深夜帰宅や二日酔いの頭には重過ぎる、土日にまとめて 読むという。

小泉信三さんの『読書論』をめくってみたら、早速エドワード・グレイが出 て来た。 イギリスの外務大臣として令名のあったエドワード・グレイ子爵は、鳥類学の大家であり、魚釣りの名手であり、且つ読書家だった。 外相在任中 のグレイはイングランドの北境に近い故郷の本邸の書斎に三つの本を用意して おいた、という。 一つは、過去の時代の大なる事件と大なる思想を取り扱う、 何時の世にも読まれる大著の一つ、例えばギボンの「ローマ帝国衰亡史」。 二 は、幾世代相継いで承認せられた古い小説(例えばサッカレー)。 三は、真面 目な、或は軽い近代書。 そうしてグレイは週末、国務の暇を得ては帰宅して、 それを読んだ。

グレイのように繁劇な職務を持つものは、これほど計画的に用意しておかな いと、ツイ手短かの雑誌や新聞に漫然と目を走らせることが多く、読書らしい 読書ができなくなる。 ひとり多忙な実務家ばかりでなく、いやしくも読書を 志すものは、読書の用意と計画を持たなければならぬ。 そしてその計画の中 に、つとめて多くの古典を入れよ、と小泉信三さんは言った。