扇辰の「甲府い」2013/05/03 06:29

 よく扇辰は、前に出た演者を褒める。 兼好は今、日の出の勢いだ。 早く 内に潰しときゃあよかった。 入門した時から、世帯を持っていて、お子さん が二人いたので、気の入れ方も違ったのだろう。 気が合うところがあって、 先祖の血かと思う。 私は長岡で、兼好は会津若松、昔は手を取り合って薩長 と戦った。 私の所は下級武士、兼好は知らないけれど、前座名が好作だった から、小作人かなんかでしょう。 落語協会から出て行った方(好楽の弟子で、 円楽党)なのに、気が合う。 協会でも、気が合わないのがいる、誰とは言わ ないけれど。 うちのカカア(口に出すのも、イヤ)も、気が合わない。 好 いて好かれて一緒になった(と、苦笑)カカアだけれど山梨で武田、私は上杉 だから、毎日が川中島。 20年近く一緒に暮らしているのは、合縁奇縁でしょ う。 <はまぐりとホタテが鍋で巡り会い>。 はまぐりが声をかけた、ホタ テさん一緒になりませんか。 もうシャケと出来ました。 なシャケねえ。

 おーい、金公、何してやんだ、人様の頭に手をあげるな。 と、「甲府い」に 入る。 「甲府い」は、昨年秋、古今亭文菊が鈴本の襲名真打昇進披露で演じ たのを、当日記10月5日に前半、6日に後半を丁寧に書いた。 扇辰は、善吉 がご飯をいただいて「お鉢、洗います」と立ち、「ババア、こっちこい。」「炊き 立てです。二升」「金公が食っただけか」と演った。 甲府の在の山ん中から、 書置き残して飛び出して来た、身延に願掛けもした、葭町の桂庵に行って、働 き口を紹介してもらおうと思うというのを、親方が「(江戸の初日にキンチャッ キリに残らず根こそぎ掏られて)いい根性をしている、もう一度踏ん張るって のは…、よかったらウチで働かないか」となる。 そして教える売り声の「と ーふぃー、胡麻入り、がんもどき」の、よかったこと。 善吉の善さんが、ご 近所のかみさん連中と子供たちの評判を得る。 お父っつあんなんて、どうで もいい、ディズニーランドをご覧なさい。 豆腐ばかり食わされて、湯へ行く とプカプカ浮くと苦情を言う亭主には、「明日は卯の花煮とくよ」。

 三年という歳月が流れ、娘のお花の婿にと親父が言い出す。 おかみさんは すでにお花に聞いていた。 お花は真っ赤になって畳にのの字を書いて、お父 っつあんとおっ母さんがよければよろしくと言った、と。 だけど善公が何て いうかわからないというので、親父は「勘弁ならん、善公!善公!」となる。  やさしく話をしたおかみさんに善公は「ありがとうございます、故郷(くに) の伯父伯母がどんなに喜んでくれるか、これからもよろしくお願いします」と、 涙を流した。

 このあたり、扇辰の語りに熱いものがこみ上げてくる。 隣の友人も、眼鏡 の下に手をやっていた。 「文七元結」「芝浜」「子はかすがい」の、ごくいい のを聴いた時と同じ感動だった。 扇辰、かなりの高みに達したようだ。

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