桃月庵白酒の「御慶」後半2016/01/05 06:20

 二十五両の切餅、32個、懐に入れる。 オッカア!オッカア!オッカア! ヤ ッコさんだよ。 開けてくれ。 バカ、起こしたのかい。 大変だぞ、千両、 当たったんだ。 まだ出るぞ、ほら、ほら…。 八百両、すごいじゃない。 別 れるか? 一生、添い遂げるよ、楽しく暮らせる。 買いたい物あったら、何 でも言え。 春の着物はどうだ、十二単衣でもいい。 三分玉のかんざし、一 尺玉でもいい。 首がもげちゃうよ、お前さんも欲しい物を。 旦那みたいな、 つっぱらかったやつ。 裃(かみしも)だろ、お前さん、きっと似合うよ。 市 ヶ谷の甘酒屋さんで。 その前に、大家さんのところだ、家賃はいくつ溜まっ てる。 八つ。

 大家ーーッ! 大家ーーッ! 大家ーーッ! 何だ、八公か。 家賃を払い に来たのか。 いくつ溜まってんだ? 八つ。 たった。 こっから、取って もらおう。 なんだ、切餅なんか出しやがって。 千両、当たったんだ。 も っと、取んな。 いらねえなら、捨てていい。 婆さん、八公が小遣いくれた よ。

 市ヶ谷の甘酒屋で、裃を買い整え、それを着ると、三日の間、寝ないで待つ。  正月が近づいて来る。 おめでとうございます、をやって来よう。 みんなま だ寝てんのか。 大家さん、おめでとうございます。 立派になったな。 弥 蔵を組むんじゃない。 挨拶の言葉も、短っかくて、重々しくて、仕事が出来 そうなのを、教えてやろう。 「御慶」。 長松が親の名で来る御慶かな、とい うな。 上がってけって言われたら、また春永にゆっくりお邪魔しますと、「永 日」と言って、帰って来ればいい。

 「御慶!」「御慶!」。 「永日!」と来やがった。 辰っちゃん、いるかい。  辰は、朝早くに出かけてるよ。 八っつあんかい、立派になっちゃって、明け ましておめでとう。 おばさんでかまわねえ、「御慶!」。 こっちへお上がん なさい、と言ってくれ、頼むよ。 「永日!」ってんだ、こんちくしょう。

 半公だ。 富、当たったんだってな、よかったじゃないか。 「御慶!」。 お 上がんなさい、と言ってくれよ。 ここ往来だぞ。 「永日!」ってんだ、ち きしょう、べらぼうめ。

 辰吉、戻って来たか。 何だ、福助人形みたいな恰好して。 「御慶!」「御 慶!」「御慶!」。 何を言ったんだ? 「御慶!」(どこへ)って、言ったんだ。  恵方参りの帰りだ。

 桃月庵白酒の「御慶」、にぎやかで元気がよく、最高の出来だった。 拍手、 拍手。