春風亭一之輔の「抜け雀」前半2023/10/31 07:14

 一之輔は、老緑や、織部、松葉色という色か、渋い緑の羽織に、さらに深い緑の着物だ。 国立劇場、建て替えの入札がまだ決まってないとか、いろんな会が借りてやればいい。 落語研究会は、なくてもいいような緊張感がある。 いろんな人がいる、先輩の木久蔵兄さん、一之輔、子供はいくつになった? と、口開けて聞く。 鼻呼吸を知らない。 鼻でも呼吸できますよ、というと、できるんだ、と。 子供は、18。 落語家になるのか? わからない。 やった方がいいよ、二世は楽だ。 百貨店で、器量の悪い美容部員に、きれいになると薦められているようなもの。 アッ! 花緑師匠は、別です。 曽祖父さんが落語家なんていう家は、伝統の重圧を感じますよ。 普通の親父の、倅でよかった。

 東海道は小田原宿、お泊りではございませんか、方々から声がかかる。 二十七、八の小太りで色白の、薄汚れて赤羽二重の黒紋付、何か一癖ありそうな男、さすがに商売、一文無しと見て、声をかけない。 人を見る目がないな。 お泊りではございませんか、相模屋です、小田原宿で、一、二、三……五に遠く及びませんが、家内と二人で親切に、お泊りいただきます。 酒を飲むがいいか、日に三升、内金に百両も預けておこうか。 お立ちになる時で、結構です。

 日に三升キューッと飲んで、ごろごろ寝ている。 七日経った。 お前さん、どうなってんのよ、二階の客、七日もいて、湯治じゃないんだから。 内金に百両も預けておこうかって言ったんだ。 幾らか貰っときゃあいい。 二十年やってる、大丈夫だ。 お前さんは今年、一文無しを二十九人、連れて来てる。 酒屋の払いも滞っている、二両も貰っといで。 まあまあ。 お前さん、主(あるじ)でしょ。 今日から、副主になる。 何! 行くよ。

 恐いな、お光っちゃんは、どんどん恐くなる、そこが好きだ。 お客様、開けますよ。 臭いな。 お話があります。 言いたくはないんですが、うちの家内が、中入で二両も入れて頂けると、と申しまして。 小判がいいか、細かいのがいいか。 どちらでも結構で。 生憎、どちらもない、一文無しだ。 何で、威張っているんですか、嘘でしょ。 恥を忍んで、申しておるんだ、馬鹿! 今年三十人目だ、またお光っちゃんに怒られる。 どうしてくれるんで。 ハハハハハ。 笑っている場合じゃない。 お客さん、仕事は? 絵師だ、狩野派の絵師だ。 何か、描いてやろう、あの衝立を持って来い。 三日前に、江戸の経師屋の職人が、一文無しだったんで、つくった。 提灯は、提灯屋が張り、壁は、左官屋が塗った。 衝立、一文も無くて旅するだけあって、欲が無くていい出来だ。 硯を持って来い。

 タワケ! 水を入れないで硯だけ持って来る奴があるか。 墨を磨れ、タワケ! それは自分でもわかってるんで、あんたみたいな一文無しを泊めた。 いい匂いですね。 鼻だけは人間らしいな。 何を描こうか。 端の方に小さく描いて下さい、後で切り取れるように。 (真ん中に、派手に描く)バシャバシャ、落書きみたいに描いちゃった、何ですか、これ。 お前の眉(まみえ)の下に光っているのは、何だ? これは、目です。 目なら、見るためにつけてあるんだろう。 見えないのなら、くり抜いて銀紙でも貼っておけ。 これは雀だ、二羽描いた。 つがい、夫婦(めおと)の雀だ。 間抜けな方が、亭主で、威張っているのが、かみさんだ。 一羽一両、二羽で二両だ。 類焼はかまわないが、売ってはならぬ。 下にいるのは何だ? お光っちゃんで。 あれと暮さねばならぬほどの悪事でも働いたのか。 可愛いじゃないですか。 お前は、見る目がないな、客あしらいを、も少し丁寧にしろと、言っておけ。

 お前さん、ちょっと下りて来て。 お呼びでございますか。 二両、もらった? 一文無しでした、エヘヘヘ。 何、笑ってるの。 お前さんの眉(まみえ)の下に光っているのは何、見えないのなら、くり抜いて銀紙でも貼っておけ。 衝立に、雀を二羽描いた。 何か、私のことを言ってなかった? 客あしらいを、も少し丁寧にしろと、褒めていた。 褒めてないよ。 馬鹿にされて、お金も取れなくて、私はもう寝るから。 頭から湯気出して寝ちまった。

 亭主は、朝早く起きる。 私(一之輔)もそう、4時半に起きて、洗濯機を回した。 何、回してんのと言われて、止めた。

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