立川笑二の「饅頭こわい」2023/10/29 07:47

 25日は、第664回の落語研究会だった。 昭和43(1968)年3月14日の第1回から開催されてきた第五次落語研究会、(初代)国立劇場小劇場での最後の会になった。 数日前には、お近くにお住いの天皇皇后両陛下も、大劇場のさよなら歌舞伎「妹背山婦女庭訓」をご覧になったという。

「饅頭こわい」     立川 笑二

「犬の字」        柳家 小満ん

「抜け雀」        春風亭 一之輔

         仲入

「試し酒」        柳家 花緑

「やんま久次」     五街道 雲助

 立川笑二は、坊主頭で太目の体格、垂れ目、鼠色の羽織と着物。 上方で浪花節のはやと兄サン(真山隼人?)の会に呼ばれて、口開けと間にはさまって二席やる予定だった。 着くと、兄サンが食中毒だという、挨拶すると、口を利こうとして、ゲロゲロッっと吐く。 上方は、面白い。 曲師の(沢村)さくらさんが、サーモンに中ったんだ、と。 イソフラボン! アニサキスだ。 高座に上がって、命削ってもやろうとする兄サンが、回復する時間を稼ぐ。 引き延ばして50分ほど、中入太鼓で降りると、兄サンが救急隊員の担架に載せられていた。 心配して顔を近づけ、どうかと言うと、「このこと、東京でしゃべっていいよ」と。 大阪は凄い、違う。

 今日は俺の誕生日だ、みんな、好きなものを言いな。 八公は? ウチのかかあ。 俺は、八公のかかあ。 俺は、蒲団。 蒲団? 八公のかかあと、一緒に寝る。 留が、来てないな。 アッ、走って来た。 ドタドタ、ドタドタ、後ろ、追っかけて来ないか? 横丁の湯屋の路地で。 湯屋? 桜の湯だ、二人で女湯を覗いたことがある。 八公のかかあの裸、見てた。 なんで、みんなで怒るんだ。 待て、留。 あそこに蛇がいたんだ、しゃべる蛇で「食べるぞ」と。 俺は、金縛りになった。 金縛りが解けて、ここへ来た。 長いものが駄目なんだ、うどん、そば、フンドシ、自分では締められない。

 恐いものは、何だ? 八公。 蜘蛛。 俺は、なめくじ。 ケエロ。 ケエロ? かかあ、夜晩くなると、ピョコンと飛びついて来る。 蟻。 蟻? 二つ三つの子供の頃、親父が死んだ。 おっかあが内緒にして、親父は仕事で帰りが遅いと言っていた。 ある日の夜、蟻に足を噛まれた。 目を覚ますと、横でおっかあが泣いていた、お前さん、なんで死んだんだ、なんで死んだんだ、と。 それで蟻を見ると、お袋の姿が浮かぶ。

 貞、後ろ向いてないで、仲間に入れ。 うるせえな。 恐いもの、なんてない。 蛇、鰻の代わりに食う。 蜘蛛、納豆に混ぜると、延びる。 なめくじ、踊り食いだ。 生き物、何でもだ。 近所の猫、減ってるだろう。 お前が一番偉い、しらける、嫌なら帰りな。 もう一度、聞く、恐いものはないか? ある。 何だ? いいよ。 (小さな声で)饅頭。 食べる、お饅頭か。 言わないで、恐いから、勘弁してくれ、帰るよ、気分が悪くなってきた。 寝ときな、奥に床を取ってやるから。 襖を締めきれ。

 みんな、饅頭を買って来い。 唐饅頭、栗饅頭、蕎麦饅頭、毒饅頭を買ってきた。 毒饅頭は駄目だ、合法的に殺すんだ。 蒲団、頭まで被って寝てる。 貞、起きて、様子を見ろ、起きろ、起きろ!

 饅頭! 饅頭! いじわるするんか。 唐饅頭が一番恐い。 来るな、来るな。 恐いよ。 恐いよ。 (饅頭を割って、次から次へと)アハ、アハ、アハと、食う。 アッ、野郎が饅頭に食いついてるぞ。 何が恐い? ここらで一杯、渋い茶が恐い。