春風亭一朝の「三枚起請」前半2024/01/30 07:09

 一朝は毎度の決めゼリフを言って、暢気な商売でございます、と始めた。 男と女、惚れた腫れたという話は、明るくなる。 何をしても許される、優しくなる。 心配なのは、相手の心変わりで、形にして残したい、二の腕に相手の名前を入れ墨にする、「一朝命」とか。 起請を取り交す。 約束を破ると、熊野権現のカラスが三羽死ぬ。 だが、明日をも知れぬ、魔が差す、いい女が通ると、そっちに気が行ったりする。 起請、すっかり廃れたが、明治大正の廓には残っていた、間夫、花魁。 朝、カラスが鳴くのは、お腹が空くからで、カカア、起きろ! 「三千世界のカラスを殺し、主と朝寝がしてみたい」。

 猪之さん、話がある。 何です、棟梁。 手間は取らさねえ、座んなよ。 おっ母さんが来て、こぼして行ったよ、夜遊び日遊びだそうじゃないか。 昼間は行かないよ、家でぶらぶらしてる。 悪いこと、してんじゃないのか。 博打かい、ここんとこ柔らかいほうになっている。 吉原の女に、トントーンとなって、ブルッブルッとした時、上げてやると引っ掛かるんだ。 ハゼだね。 年期(ねん)が明けたら、お前の所にきっと行きますと、いうことになっているんだ。 「年期が明けたら、きっと行きます、断わりに」という都々逸がある。 しっかりしたものをもらってる。 ちょっと見せろよ、本物かどうか見てやる。 「一つ、起請文のこと。私こと来年三月年期が明け候えば、あなた様と夫婦になること実証也。吉原江戸町二丁目朝日楼うち、喜瀬川こと中山みつ」

 その女、元は品川にいて、去年吉原(なか)に住み替えをした、歳は二十五で、色の白い、目の脇にホクロがあるんじゃないか。 そうだ。 罪はねえなあ(と、起請文をくしゃくしゃにする)。 何をするんだ。 欲しけりゃやるよ、俺も一枚持ってる。 多分俺の方が先だ、品川にいる時からだから。 それで未だに独りでいるんだ。 あっ、おしゃべりの清公が来た、今の話、言うなよ。

 何だ、おしゃべりの清公が来たって。 おしゃべりをしてたら、清公が来たって、言ったんだ。 何の話をしてたんだ、俺は背中を鉈で割られて、溶けた鉛を入れられても、しゃべらねえ。 猪之さんがだまされた。 こんな起請をもらっていたんだ。 起請なら、俺も持ってる。 こないだまで、モチ竿持ってトンボを追っかけていた野郎が、か。 女が書いてくれたのか、どこかで拾ったんじゃないのか。 その女、元は品川にいて、去年吉原(なか)に住み替えをした、歳は二十五で、色の白い、目の脇にホクロがあるだろう。 もう一枚出るな。 棟梁も、もらってるんだ。 チキショウ、もう勘弁できない!