三遊亭萬橘の「棒鱈」前半2024/03/08 07:01

 どうもありがとうございます、眩しくて客席が見えない、と萬橘。 寒い日が続いて、先日は雪も降った。 急に寒くなったりする、外でバケツの水を見ていたら、見る見るうちに凍った、ちょうど今の客席みたいに。 心機一転、がんばろう。 初詣に行って、去年と違う自分になれますように、と祈った。 次の日、携帯の指紋認証が出来なくなった。(と、羽織を脱ぐ) ケニアのマサイ族も、みんな携帯持っている。 それでもジャンプを見物に、ちゃんと観光客は来る。 一時ジャンプ力が落ちたけれど、元に戻ったそうだ。 上の方にしか、電波が届かないので。 機械を信用しない。 皮膚科に、しゃべる空気清浄機が置いてある。 隣のベンチに座ったら、「空気の汚れを見つけたよ」と言った。 家で「お腹が痛い」と言ったら、携帯が勝手に反応して、「ピンポーン、近くに動物病院が数軒あります」(眼鏡を取る)。

 意思疎通は難しい、気の合わない人が出会ったりする。 寅さん、この家は、人を見るよ。 寅さんの鯛の塩焼きはまるまるとしているのに、俺の前にあるのは骨と皮ばかりだ。 お前、さっき鯛を食って、喉に骨が刺さって取れないって、言ってたじゃないか。 忘れてたよ。 寅さん、この家は、人を見るよ。 芋蛸の煮もの、なんで俺のは芋ばかりなんだ。 さっき、蛸ばかりよって、食ってたじゃないか。 蛸は、海の番付で何番か知ってるか。 蛸だけにキュウバンだ。 ほかの部屋は、みんな女が来ているのに、寅さん、汚い髭を生やした鼻水の男と酒を飲むのと、どうです一杯ときれいな女にさされるのと、どちらがいいかね。 お前、女を呼びたいのか。 俺が金を出すよ。 やめとく方がいい。 寅さんが出してくれるのか。 あとでぐずぐず言うな。 今、呼ぶから、長い人生、一日くらい、こんな日があってもいい。

 何か、ご用で。 芸者を一匹、呼んで来てもらいたい。 好みがある。 若いのは駄目、愛想がない。 年増でも、七十一は駄目、七十位の。 同じだな。 若くて、踊りが踊れて、三味線を弾く、酒や食べ物は欲しがらない、祝儀をもらいたがらない、俺に惚れるような芸者を。 お茶代、取っておけ。

 こん時が、一番好きだ。 どんな女が来るか。 ごめん下さいまし。 寅さん、いい女だ、今まで、ありがとうございます(と、泣く)。 こちらは「ヘ」の部屋ですね、「コ」は隣の部屋でした、間違えました、失礼。 いい女だったな。

 隣の部屋の話を聞いてやろう。 よせよ。 聞くだけだ。 どーーも、だな様、お久し振りで。 みども、よそで遊んでおって。 南の方、品川の方へ登楼しておった。 久保、堂安、森保らとな、伊東は早く離れた。 おはんが、酌をしてくれるのか。 だな様の、お好きなお料理は? ミドモの好きなものは、「アカベロベロの醤油づけ」「イボイボボウズのスッパヅケ」だ。 「アカベロベロの醤油づけ」? マグロのサスミだ。 「イボイボボウズのスッパヅケ」? 蛸の三杯酢。 間抜けなものを、食いやがって、田舎者は大嫌いだ。