知るを楽しむ『隠居学』<等々力短信 第955号 2005.9.25.>2005/09/25 06:32

本屋さんでレジにいたら、おばあさんが「NHKの『知れば知るほど』の本 はどこですか」と訊いていた。 7月の短信に書いた『知るを楽しむ』という 番組のことだろうと思った。 この番組、なかなか面白くて、その後も工藤美 代子さんの《なんでも好奇心》「TOKYO1945 接収された建物とお屋敷の物語」、 夢枕獏さんの《この人この世界》「奇想家列伝」などを見ている。 「奇想家列 伝」の安倍晴明に「八咫烏」が出てきた。 私は大河ドラマ『義経』で熊野水 軍の田辺別当湛増が義経に差し出したのが、熊野権現の裏がカラス模様の牛王 宝印の誓紙なのを見て、落語の女郎が馴染み客に出す「起請文」に使われる紙 だなと思った。 さらに「八咫烏」から「八咫鏡」を連想して、ふと今「三種 の神器」はどこにあるのだろうかと考え、「小人閑居日記」で探索してみた。 「知 るを楽しむ」とは、まさに「等々力短信」「小人閑居日記」の世界なのだった。

初めの本屋さんで手に入れた本は、加藤秀俊さんの『隠居学』(講談社)で、 副題に「おもしろくてたまらない ヒマつぶし」とある。 加藤さんはすべて の公務から解放され、半世紀夢に見ていた「隠居」になられた。 到来物の「韃 靼そば茶」から連想し、タタール族、タルタルステーキ、そばの産地や消費地、 フランスのブルターニュ地方のクレープはそば粉でつくり、フランス語でそば のことを「サラゼン」という、サラセンはタタールと同じ東方のことだと進み、 韃靼に戻って司馬遼太郎さんの『韃靼疾風録』を読み直し、清朝、呉三桂の乱 へと、調べ物が展開する。 連歌のように、ダラダラとつづけてゆくのが「隠 居学」の真髄、おもしろくてたまらない。 なんの役にたつかと問う人がいる が、なんの役にもたたない。 このなんの役にもたたないことに、どういう意 味があるのか。 ひとことでいえば、知らなかったことを知るよろこびがある からだ。 いたるところに新知識があり、思いがけずに新発見することがある、 という。

 加藤秀俊さんよりは、だいぶ若い上に、まったくろくな仕事もしていなかっ たのに、私も恥ずかしながら「隠居」の身の上になった。 責任がないという ことが、こんなに気楽なことだとは思わなかった。 ずっとつましく暮してき たおかげで、特に暮しを変える必要もなかった。 大きな声では言えないが、 年金生活というもの、何かと同じで、三日やったらやめられないのだった。 感 謝の気持を忘れずに、年金制度の安泰を祈りつつ、「隠居学」の亜流をせいぜい 楽しみたいと思っている。

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