桃月庵白酒の「徳ちゃん」2007/04/29 06:32

桃月庵白酒(とうげつあん・はくしゅ) は五街道雲助の弟子、2005年の11月 の会で、五街道喜助から改名して真打になり「臆病源兵衛」という珍しい噺を やった。 「徳ちゃん」というのも聴いたことのない噺、いろいろ挑戦してい る時期なのだろう。

 だいぶ太った感じ、桃花色(ピンク)の着物、鳥の子色の羽織が、余計にま ん丸に見せる。 それにしても「徳ちゃん」は、こんなのを小とは申せ、国立 劇場でやってもいいのかというような、えげつない噺だった。 雨の降る夜に、 お客の入りの少ない寄席で、そっと演るような演目だ。 それで、何箇所か、 吹き出した。

寄席の給金、「ワリ(割)」の話から入る。 二ッ目以上に、客一人当りいく らというレートで支払われる。 だから高座に上がったとたん、客の人数を数 えることになる。 いまだに円より下の単位を使っている。 お互いに、いく ら貰っているかは、わからない。 何十銭の差でも、「ちくしょう」ということ になる。 ごくわずかのものなので、寄席に行く足代だけで足が出る場合もあ る。

 昔は、午後10時から12時にかけての晩い寄席があった。 客は岡場所が引 け過ぎに安くなるのを、待ち構えているのだった。 噺家も少ないワリを持っ て、二人で遊びに行く。 ちゃんとした所ではなく、面白い方、非合法の方へ。  鈴本の裏の方の、看板も出ていない、照明の暗い店。 朝8時まで、二人で1 円60銭でいいという。 女を見立てる。 真ん中の白いのは火鉢で、両側の 黒いのがそれ、猿は置いていない、住所を調べてくれ、泣いてんのかと訊くと、 笑っているのだという女を…。 一人は二畳半(四畳半を渋板で分けた)、一人 は離れへ通される。 暗くて右側の壁を手でさわりながら、善光寺の戒壇巡り のように進み、トタン塀で囲った空中庭園のような離れへ。 布団は犬猫病院 の払下げ、毛布は陸軍病院の払下げ。 ここでお詫びがあるという。 選んだ あの妓はなじみが来たので駄目、一番の妓を用意したという。 サイズは120、 180、120、岩のようなのが、髪はザンバラ、まっ黒な顔、足は十三文甲高、焼 き芋をかじりながら、「ヴァハハハ、こんばんは」と出てくる。 噺家は、鼻か ら鹿を出すのか、あの一人気違いか、という。 「ほら、抱け、ほら」と、ゴ リラのように胸を叩きながら迫ってくる。 「チュッ」とやられて、横四方固 めで押え込まれる。(中略) 少し訛っているその女、生れは越後の小千谷だと いう。 それで縮み上がったんだ、という落ち。

 小千谷出身の西脇順三郎先生が聴いたら、地獄篇をさまようニムフよ、ギリ シャの歓喜のエロスよ、とは褒めないで、やはりお怒りになるだろう。