小三治「茶の湯」の本体(上)2012/04/05 04:54

 その蔵前で、仕事、仕事の毎日だった大きな店の旦那が、根岸の里に、孫店(だ な)の三軒長屋が付いた、ほどほどの隠居所を持った。 貞吉という気に入りの 小僧と引越をする。 貞吉が周りを見て来ると、隣のお嬢さんはお花を、裏の お嬢さんは爪をつけて、琴をひっかいている、お爺さんは盆栽をいじっている。  「茶室があるし」、お菓子が出るから、「茶の湯をやりましょうよ、真似事ぐら いは出来ますよね」と、貞吉。 隠居は、ごく小さい時にやったから、忘れた、 という。 ごく小さい時って、赤ん坊の時ですか、と貞吉はひっかかる。 知 らない、忘れた、全部忘れた。 あの青い粉が何か、わからない。 貞吉が知 っていると、買いに行く。 行って来ました、角の乾物屋で、青ぎな粉。 そ うそう、思い出したよ、と隠居。

 台所から消壺を持って来て、ガバガバと火を熾す。 茶の湯なんだか、さざ えの壺焼きなんだか、わからない。 口のでかい茶碗、柄の長い「ひしゃく」 は、そばだと火傷するから、「雑巾」は絹で出来てる、「耳かき」の親方、先が かじかんでいる「お茶ぼうき」。 かき回しても、泡が出ない。 貞吉がアブク の出る薬を、買いに行く。 買ってきました、椋(むく)の皮です。 羽根突き の玉は、このムクロジの実。 隠居が、椋の皮を釜の中に入れたから、釜から 泡がブクブク。 飲みなさい。 ご隠居から。 お前が客だ。 飲み方を教え て下さい。 それは秘中の秘だ。 まず、グラングラングランと三度回す、ア ブクを向こう岸に吹き付ける。 「風流だなあ」と、一口飲む、うーん、ウー(貞 吉、手を振る)。 うがいをしてはいかん、早く飲み込みな。

 「風流だなあ」「風流だなあ」と言いながら、二人で朝昼晩「茶の湯」をやっ ていたら、三、四日で、二人ともおナカが下る、顔色がよくない。 昨夜は、 十三たびハバカリに行った、お前は? 私は、一度入ったきり、出て来られま せんでした。 おしめの乾いたのはないか、雨の降る日は「茶の湯」は休みだ。

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